涙の印
「クソ餓鬼がッ!」
ブーフは、チェコが驚くほどに怒り、陰狼に、早く殺せ! と怒鳴った。
チェコは数メートルを一気に跳び、
「やーい、馬鹿ブーフ!
そのキラキラした上着は何のつもり?
可愛いとでも思ってるのかい!」
アハハ、と無理に笑った。
金髪のピエロは、増悪に顔を歪めた。
涙の印が、グニャリと歪む。
「き…、貴様!
絶対に、許さないぞ!」
陰狼は、主? の怒りを感じたのか、グオゥ、と、夜空に響くほどの雄叫びを上げ、
チェコに、体ごと、飛びかかってきた。
チェコは、しかし、タイミングを冷静に測って、背後に跳んだ。
陰狼は松にぶつかり、大樽よりも太い木の幹が、枯れ枝のように、ボキリ、と折れた。
「アハハ、間抜けな豚犬だ!
雷!」
チェコはスペルを発動させる。
だが、陰狼の体は赤く輝き、チェコのスペルを弾いてしまう。
「馬鹿め、魔獣にスペルなど、効くものか!」
ブーフは、じんわり、と笑って、
「お前は、手と足、一本一本を引き千切り、そのまま生かしておいてやる。
ハハッ、そうなったら小僧、今度はお前が豚犬だ!」
チェコは、横に走りながら、引きつった。
とんでもない残酷な事を考える奴だ。
「ボク…、アイツ嫌イ…」
りぃんが、呟いた。
「俺もだよ、りぃん、
俺に、力を貸してくれるかい?」
チェコの体の中で、黒い少年が頷いた。
「ボク、力ヲ貸ス…」
チェコの髪の毛が、八方に広がり、闇の中に伸びていった!




