復讐
「…リンゴノ木…」
弟君の漆黒の目から、つっ、と涙が流れた。
「オ…
オオ…」
真っ黒な顔の、闇の塊のような眼球が、大きく見開かれる。
「…オニイチャン…」
ボサボサと大きく広かった長髪の中の、小さな顔から、涙が溢れた。
「オ…、オ…、オ…、ニイチャン…」
弟君は、チェコをぶら下げたまま、黒い肌をベショベショにして、慟哭していた。
チェコは、何か言葉をかけよう、とは思ったが、言葉が見つからなかった。
お気の毒、とも、気を落とすな、とも、とても言えない。
二人は、誰にも手を差しのべられる事もなく、村人に殺され、吊るされたのだ。
「オ…、オニイチャン…、ドコ?」
弟は、ふとチェコに聞いた。
「うん。
お兄さんは、下のゴロタの森にいるって…」
チェコは、気の毒そうに教えた。
「ボク、何年モ待ッテイルノ。
ナンデ、オニイチャン、来ナイノ?」
「あなたの、、お兄さんは、、冥府には入れない、、。
、、ここに近づけば、、四里の吊り橋を通って、、片牙が襲って来る、、。
、、それが判っているから、、お兄さんは、、ここへは来ない、、」
「カタ…キバ…!」
弟は、茫然と、声もなく叫んだ。
「ナゼ…片牙ガ、オ兄チャンヲ襲ウ?」
「、、同じ、冥府から拒まれた魂、、。
そういう魂同士は、、喰らい合う運命、、」
弟は、天に向かって、吠えた。
「オ兄チャン、ナニモ悪イ事シテイナイ!
急ニ皆ガ、襲ッテ来タ!
旅人サンガ故郷カラ送ッテクレタオ金、ミンナ横取リシタ!
えむーるニ帰ルタメノオ金、横取リシテ、ボクラノテントヲ焼イタ!
オ兄チャンハ、タダ、オ金ヲ返シテ、ト言ッタ!
ダケド、タダ、奴ラハ笑ッテイタ…。
ダカラ、オ兄チャン、復讐シタ!」
そうだったんだ…、とチェコは驚いた。




