弟
チェコは木の中に突っ込んだ。
木の葉がクッションになったせいか、特に体に痛みは感じない。
が、なぜかチェコは、空中に、ブラン、と、ぶら下がった。
あれ、と思うが、下を見てみると、とんでもない高所だ。
落ちなくて良かった、と胸を撫で下ろし、何が引っかかっているのか、と背中を探ると…。
チェコの背中の襟首を、何かが支えていた。
木の枝かな、と思うが、手で触れた感触は、木肌にしては、やけにスベスベしている。
何だ、と振り返ると。
真っ黒い少年が、杉の木の巨大な枝に座り込み、チェコの襟を掴んでいた。
それは、影のように黒く、その中でも特に、二つの切れ長な異国風の目は、大きな闇が凝縮したように真っ黒だった。
ボサボサの長い髪が、樹木の間に蜘蛛の巣のように広がっている。
驚愕して、息を飲むチェコだったが、やがて思い至った。
「君…、弟君…?」
真っ黒い少年は、ニッカリと笑った。
「オ前、危ナカッタ…。
ボク…、助ケタ」
「あ…、ありがとう…」
黒い少年が、さらに大きく笑う。
が、急に笑顔を引っ込めた。
「ボク…、オトウト…?」
首を斜めに傾ける。
こういう時、どう答えたものか、チェコは迷った。
なにしろ、誰からも助けられなかった異国の兄弟で、無残な死刑になっているのだ。
チェコは迷った。
が、本当を言うことにした。
「そうだよ。
君は、テール兄弟の弟君だよ。
誰からも助けてもらえなかった異国の兄弟で、リンゴの木の下に、穴を掘って住んでいたんだ。
そして、村人に吊るされて、兄弟揃って、死刑になったんだよ」
黒い虚ろのような目が、大きく見開かれた。




