魂を売った
チェコはアースを浮かべた。
「召喚、怨霊!」
チェコの正面に闇が渦巻くように集まり、その中から、白い煙のように不確かな黒衣の霊が浮かび上がった。
「止めるかな!」
ウェンウェイが叫ぶのと、チェコが吹き飛んだのは同時だった。
チェコは、何か巨大なものに、横から追突されて、森の奥に消え去った。
しかし、殺し屋ピエロ、ブーフは、輝く金髪を少しも乱さず、豪華な赤いラメと黒のビロードの上着を纏い、艶やかに黒いタイツを光らせて、緑の尖った革靴も、微かにも動かさず、腰に手を当てて笑っていた。
「邪魔をするなよ、坊や。
僕は西方侯ユリプス様の宮廷道化師だ。
常に笑いを生み出し、尊き人々に振り撒いている。
だが、稀に、侯、直々に御下知された時にだけ、僕のもう一つの力を使うことが出来る。
すなわち」
パチン、と指を鳴らした。
「この陰狼の魔力を使えるのだ。
スペルランカーなど、こうなった僕の前では無力!」
アハハハ、とブーフは笑った。
「なぜなら、僕は何十年も前に、魂を売っているからだ。
僕の魂は陰狼の中にあり、魂を持たない僕の肉体は、永遠に美しい子供のまま、なのだからね。
そもそもライフを減らすことなど、僕には出来ないのさ」
クルリ、とブーフは、踊るように回転した。
「お前がカードを弄くるより早く、僕は陰狼で、お前を潰す。
判るね。
いいかい。
僕は、これでも、子供を殺すのは好きじゃない。
僕は子供の味方なのだから、ね。
ユリプス侯のご所望はウェンウェイの首、それだけだ。
だから坊や。
大人しくしていたら、ウェンウェイを殺した後で、君の事は、じっくりと遊んであげるよ。
よく見れば、君はなかなか、可愛らしい。
その服、女物じゃないかい?」
ウフフ、とブーフは艶やかに笑い、
「良く似合っているよ」
真っ赤な唇から、真珠のような白い歯を覗かせた。




