陰狼
「俺が、やっつけるよ!」
チェコは立ち上がろうとするが、ウェンウェイは、チェコに上から押し掛かって止めた。
「無理かな!
相手はプロの殺し屋かな!
同じ子供のように見えても、あっちは何十年も生きている化け物かな。
陰狼という魔物を使い魔とする殺人者かな!」
「だけど人間なら、こんなテントぐらい、すぐ開けて、入って来ちゃうよ?」
ウェンウェイは震えながら、
「俺は、もう駄目かな。
お前だけでも後ろから逃げるかな…」
「そんなこと、出来ないよ!」
囁き声で言い争っていると、突然。
竜巻にでも飛ばされる様に、テントが闇に舞い上がった。
子供が、立っていた。
月光に、ビロードのような金髪が、艶やかに光っている。
蝋のように白い顔の、左目の下に、青く涙マークが描かれている。
おそらくチェコと変わらない年齢の子供、らしき姿が、華美な赤いシルクの衣装をまとい、ハーフパンツに漆黒のタイツを履いて、獰猛に笑っていた。
「久しぶりだなウェンウェイ。
すっかり爺じゃねーか、凡人は憐れだな」
カカ、と笑い。
「さて、もう判ってるな。
お前は、知らなくても良い事まで知ってしまった。
だから、長ーい旅に出て貰うぜ、冥土へのなぁ」
子供のような声だが、何かが違う。
子供の声の中に、しゃがれた老人のような音が混じっているように聞こえた。
「ウェンウェイさん、戦おう。
二人なら、あるいは勝てるよ!」
チェコは、ウェンウェイの体から抜け出し、立ち上がった。




