殺し屋ピエロ
「もう寝るかな…」
ウェンウェイは言って、毛布にくるまって背を向けた。
チェコは、燃える焚き火の奥、こんな冷え込んだ針葉樹の森で、じっ、とこちらを見つめる小さな魂を、布越しに見ていた。
パチリ、と焚き火の中で、枯れ枝がはぜた。
と…。
パタパタパタ…。
微かに、子供が走るような足音が聞こえて来る。
時折、タンタンタン、と跳ねる音も聴こえてきた。
「…何…?」
チェコが聞くと、ちさが答えた。
「あれは、、夜の子供、、」
山人なのか…。
「じゃあ、あの弟君は?」
「…判らない…。
夜の子供は、、悪いヌチ、、。
あの子は、きっと隠れた、、と思う、、」
夜の子供に追い払われて、遠くからテントを見ることさえ出来ずに森に消えた弟君が、悲しくなるチェコだったが…。
「おい、ウェンウェイ!」
突然、テントの外から声がした。
甲高い、子供のような声だ。
ビクッ、とウェンウェイは飛び上がった。
毛布を抱き締めながら、恐怖に目を見開ききった顔に、見上げたチェコも恐ろしくなる。
ウェンウェイは、怯えきった表情で、チェコを手招きした。
震える指を立てて、音をたてるな、とゼスチャーする。
チェコが近づくと…。
「俺を殺しに来た男かな。
ブーフと言う有名な道化師で、子供にしか見えない小人かな。
コビト、知ってるかな?」
「村に曲馬団が来たことがあったから」
とチェコは頷いた。
「ビラを配ったり、面白い事をしたりして、楽しそうな人だったよ」
「ブーフは、魔物を使う殺し屋ピエロかな…」
ウェンウェイは、歯をガチガチと震わせながら、言った。




