ニオイ
長々とお休みしてしまい、すみません。
今日から再開しますので、どうぞ宜しくお願いします。
針葉樹の木の枝の上で、それ、は肌を切るような風を受けながらも、影のような顔には何の表情も浮かばない。
小柄で、髪は女のように長く、山並みを吹き下ろす風に、乱暴にたなびかせている。
眼は、まるで大きな穴のようで、真っ黒に、全ての光を吸い込んでいた。
それ、は、ふと、自分の手を、持ち上げて、まじまじと見下ろした。
爪が、猛禽のように、鋭く伸びている。
「ボク、の…手?」
それ、は考え込んだ。
何かーー。
それが何なのか判らないのだが、なにか、が思い出せないような気がする。
それ、は背を丸めて、木の枝にしゃがんだ自分の膝ほどに丸まりながら、黒々とした己が手を見つめ、うーん、と考え込んでいた。
ボクには、何かが足りない。
あっ、とそれ、は身を起こす。
そうだ!
足らないんだ!
何か、は、どうも、あったかいものだ。
前までは、自分の内にあったはずの、何か…。
それは、あったかいもの、だった…。
それ、は木の枝を蹴って、隣の木に、体重も無いように飛び移った。
そして、鼻をひくつかせて、呟いた。
「…ごはんのニオイ…」
歌うように、それ、は呟く。
「…良い…ニオイ…」




