柱
捨て子、拾われ子、
どれだけ、そんな風に言われて来ただろう。
いつでもチェコは、違うよ、俺は爺さんに預けられたんだよ、と言い返した。
返したが…。
怒鳴れはしなかった。
怒るほどの自信が、チェコには無かったのだ。
どこか、心の底の方で、常にチェコの精神の支柱は、ぐらり、ぐらり、と揺れていた。
ダリアの言葉を信じたい。
だけど、ダリアは何も話してはくれなかった。
「大人には、餓鬼には判らない事情があるんだ」
と、安いパイプの煙を吐きながら、道に唾でも吐き捨てるように言うだけだった。
そして、チェコの願いを、ひょい、と、交わすと、ダリアは、手に職をつけろ、と言って、文字を教え、数学を教え、錬金術を教えた。
手伝いばかりで、ちっとも遊べない。
窓の外では、村の子供たちの楽しそうな笑い声が、いつでもどこでも、聞こえていた。
でも…、たまに外に出ると、チェコは虐められた。
何だ、その変な髪の色は!
…これは、麦の枯れ穂の色なんだよ…。
何だ、お前の変な目の色は!
…これは、明るい茶色なんだよ…。
違うよ。
捨てられて無いよ。
預けられただけなんだよ…。
心の底で柱が揺らぐ。
ぐらり、ぐらりと揺れる度、
チェコは、不安で、怖くて、
何か、とんでもなく恐ろしい物が自分の腹の底から、
ある日、突然、生まれて来そうで、
自分の心が、何か恐ろしい物に盗まれてしまいそうな気がして、
常にチェコは、柱にしがみつきながら、怯えていた。




