錬金術師の孫
チェコは、毛皮の敷物に素足を埋めて、まろびとの淹れてくれたお茶を、ズズッ、と啜った。
針葉樹の森に、夕陽が落ちようとしていた。
さすがに山深いので、眼下には、ずっとゴロタの森が幾重にもうねるように、果てしなく続いていた。
ここを、ずっと歩いてきたんだなぁ…。
ふっ、と、チェコも感慨に耽った。
「ちょっと風が出てきたかな…」
まろびとは、テントの後ろの布を下ろした。
「まろびとさんは、沢山、本を読んでるんだね」
まろびとは、両手で円筒型の金属のカップに布を巻いたものを持ち、ごくん、と一口、茶を飲むと、
「本は、知識かな。
人は、一つの体では、世界の隅から隅まで見ることは出来ないかな。
しかし、本を読めば、色々な事が判るかな。
判れば、正しい判断も下せるかな。
俺は今でも、このノートだけは持っているかな」
と、巨大な荷物の中から、分厚いノートを取り出した。
「本で読んだことが、全部書いてあるノートかな」
ガサリと捲ると、細かい字で、三色のインクで、端から端までびっしりと手書きされている。
「へぇ、カノッサの要塞の入口は三つしかなく、標高差は…」
まろびとは驚いた。
「お前、その歳で、これが読めるかな!」
チェコは、ポカンと、
「読めるよ。
俺の爺ちゃんは錬金術師だもん。
いつも、勉強させられるし、手伝いもするんだ。
鏡ぐらいなら、一人で作れるぜ!」
エヘン、とチェコは胸を張った。
「錬金術師の孫かな。
お前はなかなか、見所があるかな」
うんうん、と、まろびとは頷いた。




