草原
テントを張り終えると、まだ日差しが強いので、前と後ろの布を巻き上げて、早速、湯を沸かした。
「まろびとさんは、凄く物を知ってるんだねぇ」
チェコは手早く枯れ葉を集めて、薪にした。
本当の高山になると、木など生えないので、持参の薪や炭を使わなくてはならないらしい。
「俺は西方侯ユリプス様の文官の一人だったかな。
文官には教養も知識も求められるかな。
だから、元々、地理や異国の情報も詳しいかな」
「西方侯なんて言われても、俺には、ちっとも判らないしね」
ハハハ、と、まろびとは笑い、
「トカゲ人間の旅団に行ったことがあるなら、あの草原を西に、ずっと進むと西方侯ユリプス様の治めるプロバァンヌへ通じる緑海の海岸沿いの国、ブラーへ出るかな。
ブラーの国境を流れるリーム川を船で登って行くと三日でプロバァンヌの首都カゥヌかな。
ここは地図的距離より、ずっと近いかな」
ふーん、とチェコは夢想する。
トカゲ人間の旅団の旅を…。
「あの草原を旅するって、どんなだった?」
「俺たちは季節も春、好天にも恵まれて、楽な旅だったかな。
雨季や冬だと大変らしいかな。
ただ草原にはネズミ人間がいて、時折、旅団を襲うこともあるようかな」
「ネズミ人間!」
「俺は見なかったが、そういう部族が草原の奥、砂と岩だけの場所に住んでいるかな」
茶を淹れる頃には、空は、毒々しいほどに赤く、染まっていた。




