秘境
分厚い布地のテントを張り、地面には毛皮を敷く。
テントの中で火が焚けるように、毛皮の真ん中は穴が開いていた。
「高地では、このテントが絶対に必要かな。
外でなど、とても眠れないかな」
ふーん、とチェコは上半身裸で生返事をした。
今は日差しが強く、風もほとんど無いので、あまりイメージが浮かばない。
「まろびとさんは、カードを手に入れたら、どうするの?」
「それかな。
俺が持っていると知られたら、それ目当てに襲われる可能性もあるかな。
ただ、俺が秘密を知った、と思っている西方侯の手の者は、逆に迂闊に手を出せなくなるかな」
「え、どうして?」
まろびとは、ケケッと笑い、
「たぶん、そういうカードかな」
と、ちょっと悪そうな顔をした。
カードには興味があったが、あまり聞くと、たぶん、まろびとはチェコも疑うような気がしたので、話題を変えた。
「イヌワシ峠って、近いの?」
「今登っている勾配の頂上がイヌワシ峠かな。
後、百数十メートルは登るかな」
「えっ!
じゃあ、そこが四里の吊り橋って事?」
ワハハ、と、まろびとは笑い、
「イヌワシ峠から二つ瘤を越え、魔女の宴場、と呼ばれる岩だらけの難所を抜けた先に黒龍山の頂上があるかな。
そこから、ちょっと下った先に四里の吊り橋はあるかな」
チェコはてっきり、イヌワシ峠から吊り橋はすぐだと思っていたので、少しテンションが下がった。
「そんな遠いんだ…」
「まー、エルフと会えないと細かいことは俺にも判らないかな。
四里の吊り橋は、今は、エルフだけが知る秘境かな」
チェコは、もっと単純に、ただ長い吊り橋なのだと思っていた。




