カード
「ねっ、俺は、まろびとさんの命なんて狙って無いでしょ」
チェコは、肩で息をする、まろびとに、笑いかけた。
「…早とちりだったかな…、剣を向けて悪かったかな…」
「いいよ、いいよ、誤解さえ解ければ。
まろびとさん、命を狙われてるから、山で生活してるんだね」
恐ろしく痩せた男は、コクリ、と頷き、ドサッと座った。
「俺は、恐ろしい秘密を知ってしまった…、かな。
それで西方侯ユリプス様の宮廷から逃げ出し、この山に籠っている…かな。
この山は、ゴロタが入るから、軍隊でも、容易には入ってこない上、もしもの時には、赤竜山に逃げられる、かな」
ふーん、大変なんだねぇ、とチェコは相づちを打っていたが、もし、この場にパトスがいれば、西方侯ユリプスはチェコの祖父にあたる人物、と判ったかもしれない。
チェコ本人は、ダリア爺さんの昔話よりは、目の前の爺さんの酒のツマミの萎びたサラミの方に、興味が向かっていた。
「実は…」
と、まろびとは話し出す。
「この山には、とてつもない宝が眠っている、かな!」
「えー、お金?
こんな田舎の山に、お金がある、って言うの?」
まろびとは、チェコに耳打ちする。
「金じゃない…かな、
世界に九枚しかない、原初のスペルと言われる九枚のカードの一枚かな…」
チェコとちさは目を合わせた。
それって、たぶんチェコが持っていた、冥獣アドリヌスの事だよね…、と、これは流石にチェコにも判った。
アハハ、とチェコは笑い。
「この広い黒龍山の中から、一枚のカードを見つけ出すなんて、大変だねぇ」
「そうかな」
と、まろびとは深刻に頷き、
「しかし、俺は地道に調査し、ほぼ、カードのある場所は突き止めた…、かな」
チェコは、逆に汗をかき出した。
まずい…。
あれは俺のカードなのに、この人は、ずっと山の中で、カードを探し続けていたなんて…。
そんなチェコの心配をよそに、まろびとは声を潜めた。
「カードは、四里の吊り橋の、ある場所に隠されている、かな…」