タッカー・トラッテーロ
「よーし、そーっと、そーっと…」
チェコは、踊るような仕草で、空中に浮いた荷物の列を誘導していた。
キャサリーンと、ハナと共に、リコの村に帰ることになったチェコは、森の案内をすることになった。
が、森のルートは、パトスが、鼻で探すので、チェコはパトスの後ろで、キャサリーンが浮遊のスペルで浮かべた、キャサリーンの私物の山を、安全に誘導していたのだ。
「キャサリーンねぇちゃん、荷物、多いよねぇ」
チェコを先頭に、大きな衣装籠、小さい衣装籠、アタッシュケースなど、十数個の箱が、空中を進んでいく。
「スペル開発っていうのは、色々資料がかさむのよぅ。
だからマイ馬車を買ったのに、粉々になっちゃって、もーサイアクよぅ」
キャサリーンは赤い髪をポニーテールに結って、ハイヒールは手に持って厚い苔の上を歩いていた。
一行は、森の、出来るだけ平坦な場所を選んで進んでいたが、急にパトスは立ち止まり、唸りだした。
一行の行く手を、だぶだぶの大きなコートを着た、小柄な少年が、立っていた。
コートは、少年の足元までを覆うように、長く伸びている。
「誰だ?」
チェコの問いに、少年は、モジャモジャの、焦げ茶色の短い髪を掻きながら。
「いやー気づいちゃいましたか?
知らない間に、パパっと片付けちゃおーと思ったんですですが、残念ですねぇ。
私は、タッカー・トラッテーロと申しまして、マッドスタッフさんに依頼されて参上したスペルランカーで、御座います」
ペコリ、と腕を前に振り下げながら、大きく頭を下げた。