まろびと
岩に、苔が生えてきて、数歩進むと短い雑草がポツポツと生え。
やがて、岩の間に土が現れて、その土の上には、芝のような、ささやかな雑草が、幾種類も生えるようになった。
「おっ、こんな所に玉苺が生えてる!」
早春の果実のはずだが、チェコは迷わず口に放り込む。
「ん。
甘~い。
ちさちゃんも食べる?」
毒まみ池から何も食べていないし、水も毒だと言われていたので、玉苺の甘さと水分が、堪らなく旨い。
つい、夢中で食べていると、
「誰かな…」
呼ばれて、チェコは驚いて顔を上げた。
ボサボサに延び放題の髪と髭、ボロボロの毛布のような、薄汚れた衣服の、年令不詳だが、たぶん中年の男だ。
「あ…、あなたは…、猟師?」
「チェコ、、彼は、、まろびと」
まろびと!
聞いたことはあった。
黒龍山の高地には、猟師しか入いらない。
が、その猟師としか交易をしない、謎の人間がいて、彼らは山に、一生住み続ける…と。
「そ…、それは影ヌリ…、かな…。
どういう事かな…、人間と影ヌリが一緒にいるとは…、妖しいかな…」
チェコは慌てて。
「俺はリコ村のチェコだよ!
ちょっと、下の毒マミ沼で山津波があって、友達のエルフと別れちゃって…、その…、上のイヌワシ峠で落ち合う約束なんだよ!」
まろびとは、かなり疑っていた。
「平地の村の子供が、ゴロタの森を抜けられるハズは無いかな!
エルフと平地の人間が友達になることも、あり得ないかな!」
いや…、とチェコは慌てて、
「俺、スペルランカーだから」
と、スペルボックスを見せた。
まろびとは息を呑み、
ジャリ、と、背に吊るしていた剣を抜いた。