温泉
「はぁ…」
少女が、肩まで湯に浸かって、のんびりと溜め息を漏らした。
金色の長い髪を後頭部で纏め、タオルで覆っている。
髪と同じ、金色の瞳が美しいが、右目は、眉の上から頬にかけて斜めに走る傷で、塞がれたままだ。
華奢な両腕を頭上に伸ばし、うーん、と背を反らせると、小粒だが形の良いバストが、ぷかり、と湯に浮かんだ。
昨日から今日にかけては、色々な事が目まぐるしく起こり過ぎて、夢か、劇でも見たように、ぼんやりと思い返すばかりだ。
夜の森をさ迷い、やがて仲間と再会すると、今度は森の中の村を襲撃した。
少女は、いつものように、可能な限り村人の延命に努めたが、いつものように沢山の人が死んだ。
それは悲しい事だったが…。
少女は、そのような事をするために育てられたのだし、売られるように軍隊に入ってから、長い年月が経っていたので、悲しい事に慣れてしまった。
「はぁ…」
もう一度、深い溜め息をつき、湯で丁寧に顔を洗っていると…。
「あれぇ…、ちさちゃん、
この上って、温泉じゃないのかな?」
なんか…!
下の方から、男の声がする。
えっ、…何!
少女は慌てた。
山の中の、しかも高山の湯なのだから、誰もいないハズなのに!
いったい、どうしたと言うのだろう。
ザバッ、と少女が細い、透き通るように白い肌を、湯から外気にさらした瞬間。
岩の間から、真っ黒い顔が覗いた。
キャ…、
少女は叫びかけたが、黒い男は、
「あれ?
ミカさんじゃない!」
へ…、と、よくよく見ると、確かに、真っ黒だが、昨夜、一緒に森をさ迷ったチェコである。
「チェコ!」
と、笑顔が広がったミカだが、チェコが全裸であることに気がつき、改めて悲鳴を上げた。




