体の上
うわぁ!
チェコは転倒し、慌ててハンザキの顔に貼り付いた。
ハンザキの体は、まるで鰻のようにヌルヌルとした体液で覆われていたのだ。
ま…、まずい…。
チェコの考えでは、ハンザキの体の上を、ほんの五、六歩走れれば、後ろの渓流へ跳び下りられ、そのまま駆け抜けられるハズだった。
無論、百パーセント、思った通りに行くとまでは、とても考えてはいなかったが…。
まさか、こんなにヌルヌルの体だとは!
チェコは、必死で手足の指を細かく動かして、なんとかハンザキの頭に乗る形にはなったのだが…。
とても、走るどころではなかった。
ナイフの一本も持っていれば、手掛かり、足がかりになったのだろうが、チェコは丸っきりの裸だった。
トレースのカードを口に咥え、チェコは、体液まみれの頭を、這いずって奥へ向かった。
横に落ちて、水の中を進む道もあったが、水中は泥かもしれないし、第一、もしハンザキが知れば、距離ゼロで向かい合うことになる。
どんなに足場が悪くとも、ハンザキの体に貼り付いて先に進むのが、当面、一番安全だと思えた。
チェコは、なんとかハンザキの巨大な頭を登り終え、滑るように首に落ちた。
なんとなく、楽に、微かに水没した巨大な首に跨れる、と目算したのだが…。
ハンザキの首の構造は、頭とは違っていた。
とてつもなく、柔らかいのだ。
ブヨブヨと言っても良かった。
ぐにゃり、とした感触を足に感じた時には、チェコは水に、ドボンと落ちていた。