吸う
水面が、盛り上がっていく。
チェコは、体重を後ろにそらしながら、同時に、しゃがんだ。
波立った水の中から、馬車ほどもある巨大な頭が、その姿を現した。
微かに尖った口先が、水を裂くように現れ、そのまま、洞窟のような口を開き、真っ黒い穴を覗かせた。
やっぱり!
チェコの体は、浮き上がった。
動きが遅いのに素早い魚も逃さない、その秘密は、吸い込んでいるからなのではないか、とチェコは閃いていた。
だから、水中で丸くなり、わざと吸われた。
「トレース、発動!」
チェコは叫んでいた。
その一瞬にも、チェコは吸い込まれていく。
問題は、ここからだった。
空を飛んで、逃げるのだ。
まさに、馬鹿げた妄想だった。
だけど…。
吸い込む為には、口は、水の中に入れないといけない。
じゃないと、水より空気が入ってしまって、よく吸えない。
タライからタライに、水をホースで移すとき、ホースの空気を吸い出すのと一緒だ。
思った通り、ハンザキの、巨大な口は、水の中に沈んだ。
やっぱり!
チェコは、大きく手を伸ばした。
ハンザキの、平べったい頭に手を当てて、
瞬間、両足を持ち上げ、ハンザキの頭を、思いっきり蹴り上げた。
チェコは、空中にジャンプしていた。
後はーー。
このまま、ハンザキの巨大な体の上を、走り抜ければ、渓流に出られるーー。
はずだったが…。