来る
「ちさちゃん、奴が動きそうになったら、教えてね」
チョコが呟く。
「判ってる、、けど、気をつけて、、チェコ、、」
ハンザキは、近づくにつれて、その巨大さが改めて判ってきた。
微かに、頭の天辺が水から出ている。
その丸い、頭の一部だけで、チェコの家の、自分のベッド程の大きさ、なのだ。
俺…、あそこに寝られるよな…。
その後ろに、小山のような、体の一部が浮かんでいる。
なるほど、ワニを餌にする、と言うだけあって、沼で見た、あの黒豹が、三頭から五頭ぐらいは、平気で並びそうだ。
あの頭から、口が開いたら…。
チェコ等は一呑みだろう。
チェコは、三歩目を進んだところで小休止していたが、深く息を吐き、四歩目の足を、水底で滑らせた。
この一歩を進んだら、そのままトレースを開始する。
チェコは、頭の中で、自分の行動を思い浮かべた。
そして…、もし奴が襲ってきたら…。
チェコは想像する。
全く、上手くいくとは思えなかったが、たぶん、それ以外には、打てる手はない。
足は、水底を滑っていく。
足の指は、やはりドロリ、とした土の感触だ。
体重を、かけてみないことには、沈むかどうかは判らなかった。
前の足は、太股の半分まで水に浸かっていた。
もう、あと十センチ進んだら、足を止め、同時にトレースを…。
チェコが心の中で自分の行動を思い描いたとき…。
ちさが叫んだ。
「来る!」
チェコは、背後に倒れるように、自分の体重をずらした。