水底
足を、水中で、ゆっくりと動かしていく。
前の足で体重を支えながら、後ろの足を、ゆっくり、ゆっくりと前方へ、水底を滑らせる。
ハンザキが急に襲ってきたときのため、足の指は、常に地面を触るよう、少しづつ進ませていく。
ハンザキは餓えている、と、ちさが言っていた。
奴は、どうしても、チェコが食べたいハズだった。
そのために、今、石のように固まっているのだ。
一瞬で、チェコを飲み込めるよう、力を蓄えている、と言ってもいい。
次に動く時には、それこそ満を持して、飛びかかって来るだろう。
素早い魚でも逃げられない速度とは、どんな早さなのだろう。
きっと、後ろを向いて逃げるのでは、間に合わない。
ハンザキが動いたら、その一瞬でとれる行動は、やっと一つ、有るか無いか、なのだろう。
チェコは、足で水底を擦りながら、滑らせていく。
ハンザキの、僅かに水から浮かんだ頭を、凝視しながら。
足は、どんどん深く、沈んでいく。
今、膝が水中に沈んだ。
太股が、水に触れていく。
もしかして…。
この辺で、トレースが、かけられないかな…?
雷のように、使えば、すぐ判るスペルもあるが、トレースは成功しているか、判らない。
対象が遠すぎても、一応、カードは出来るのだ。
ただ、真っ黒なカードになってしまう。
出来上がるまで、成功か失敗か、判別できない。
だからこそ、失敗は出来なかった。
チェコの足が止まった。
今度の水底は、どうも、砂と泥が、混じっているようだ。
足が沈む、ということは無いが、ちょっとヌルヌルしている。
次の一歩は…。
泥かも、しれない…。