計る
チェコは周りを見回した。
ハンザキから逃げるルートを考えなければ、仮にトレースが成功しても、そのままハンザキの胃の腑に収まって、そこで終わりになってしまう。
池の周りは、ほぼ、土か、砂か、石だったので、泥に入るのを避けようと思えば、石の側に向かうしかなかったが…。
チェコが立っているのは、チェコの体が立つのがやっとな幅の狭い岩の岸で、下は五メートルの崖になっている。
そこから岩の右手側は、ゴロゴロと大小の岩が崩れ落ち、山になって池の端まで続いていて、そこからハンザキの背後辺りで渓流の続きになっていた。
石側に逃げるのは、かなりのリスクがある。
チェコは素足だし、川石と違って、崩れた岩は、割れ、砕け、鋭く尖っていた。
ブーツさえ履いていたら何でもないが、今、ここで無事に生き永らえたとして、足に怪我をしては、この先、渓流を登れない。
ここには、布切れ一つ、存在しなかった。
だが、いつまで躊躇っていても仕方がない。
再び、生唾を飲み込んで、チェコは足を、一歩、前に滑らせた。
砂が、足の指をくすぐった。
ハンザキは、動かない。
だが、いつまでも動かないとは限らなかった。
奴は、ただ計っているだけ、だからだ。
喰える、と思えば、いきなりでも飛び出すだろう。
チェコは、二歩、進んだことになる。
あと一メートル近づけば、おそらくトレースできる、と思う。
あと、二歩と言ったところだ。
しかし、水深の問題があった。
今、チェコの前脚は、膝近くまで水に浸っていた。
後ろの足は、脛の中ほどだ。
もう一歩、進めば、たぶん…。
太腿ぐらいには深くなる。
ハンザキは、大きな背中だけを、水上に現わせている。
あの辺りの水深は、浅く見積もっても一メートルぐらいはあるだろう…。