土砂
「チェコ、、トレースをするには、もっと接近しないと、、駄目」
チェコは崖を登り、池に背中を見せているハンザキを、そっと見つめた。
「ああ。
だぶん、あと三メートルは近づかなきゃね」
「三メートル近づいたら、、ハンザキ、、チェコを丸飲みにする、、」
「うん。
ちさちゃんの言う通りだけどさ、
あの岩崩の中でもトレースができたんだから、タイミングさえ合えば、一瞬でトレースは出来る、と思うんだよね」
言いながら、チェコの額を、汗が伝う。
「とにかく、近づけるだけ近づいてみてさ…。
一度、どのくらいで襲って来るのか、確かめないとね…」
へへっ…、とチェコは、冷や汗を流しながら、笑った。
「でも、、チェコ、、ハンザキに近づくのには、、水に入らないと駄目、、
でも、、水の中では、、地上よりも、、動きが、、鈍る、、」
「そう、
池の深さとか、底の地面も考えないとね…。
泥だったら、最悪だよね…」
チェコは呟き、
やおら、一歩、水の中に足を踏み入れた。
チェコの顔面を、瞬間、恐怖が過る。
足は、柔らかな砂の上に沈んだ。
少し、めり込むが、泥と比べれば安定していた。
「ちさちゃん、下は砂みたいだ…」
「安心、いけない…。
ここは元々、、安定した場所じゃない、、二歩目は泥かもしれない、、」
確かに…。
チェコは周囲を見回した。
岩と土しか見られない。
木も、草も、微かな藻のような物さえ見えなかった。
全て、山の上から落ちた土砂で出来上がった場所なのだ。
それでも…。
チェコが、一歩、近づいても、ハンザキの巨体は、微かな動きも見せなかった。