主
チェコが、池に片足を浸けた瞬間。
「、、チェコ、、危ない、、避ける、、」
ちさが叫び、チェコは、真横に飛んだ。
チェコが立っていた岩場が爆ぜ、大量の水飛沫が飛び散った。
岩が砕けた箇所から、ごっ、と水が下の渓流へ流れた。
「ええーっ!」
チェコは、驚愕した。
池の中から、五メートルは有りそうな、巨大な黒くぬめった生物の背中が、顕になった。
「ち…、ちさちゃん?
あれ…、ハンザキだよね?」
「ちさも、、見るの、、初めて、、、。
だぶん、、そう思う、、
あれは、、逃げ遅れた、、主、、、」
巨大なサンショウウオは、水から背中を出したまま、全く動かない。
チェコは、思わず自分の腰に手を伸ばし、スペルボックスが無いことを思い出した。
「…い…いやぁ…、この人ったら、俺を餌だと思っていらっしゃるのかなぁ?」
冷たい汗を流しながら、呟いた。
「…だぶん…、あの池では、、、主には、、小さすぎた、、。
全てを食べつくし、、何日も、、食べて、、無い、、」
チェコの左側は、切り立った岩の岸で、右側は落盤跡も生々しい、剥き出しの土の丘だった。
渓流の流れは、ハンザキのずっと奥に、続いてる様子だ。
チェコは、アースを浮かべた。
頭上には、一つのアースしか浮かばない。
「ああ…!」
チェコは嘆いた。
「やっぱり、元に戻っちゃってる…」
青ざめながら、チェコは目の前に広がる広い池を眺めた。
一アースでも、使えるスペルはいくらでもある。
雷や二つ頭も一アースだ。
だが、チェコの手元には二枚のカードしかなかった。
トレースのカードと、ハンザキの子供、だ。
ハンザキの子供は、二アースで召喚できる二/二の召喚獣で、一アースで再生ができる。
「だけど、俺が使えるのは1アースだよ…」
ちさのアースと合わせて、ハンザキの子供は召喚できるのだが…。
あの主が相手では、何度再生しようが、勝ち目はなさそうだった。
「ああっ、俺が二アース出せたのなら、面白いこともできたのになぁ…」
チェコは盛大な溜息をついた。
「、、あたし、、思うのよ、、チェコ、、」
ちさは、チェコの手に沿って、肩から降りてきた。
「多分、本当はチェコは二アース使えるはず、、って」
「ええっ、そんなの無理に決まってるじゃん。
あの鎖帷子を着てたから使えてたんだよ、あれは多分、持ち主のアースを倍にする鎖帷子なんだ。
まぁ、凄いアイテムだけど、俺じゃあ二アースにしかならないのは宝の持ち腐れだったよね」
はぁ、と息を吐きながらチェコは嘆く。
瞬間、チェコのいた空間には、巨体な楕円形の凶暴な顎が、切り裂いていた。
「あ…、危なかったぁ…」
チェコは、崖に手をかけて、ぶる下がっていた。
左右を見、左側に剥き出しの岩が棚のように出ているのを見つけると、小猿のように軽々と飛び移って行く。
「チェコ、、考えてみて、、ただの二倍にする鎖帷子なら、タッカーも使えたはず。
タッカーは、死にかけていたわ。
あれは、そういう物ではない、、と思うの、、多分本人の潜在能力を引き出すアイテムよ、、だからタッカーは、あんなに苦しんでいたのよ、、」
チェコは、岩の上に胡坐をかき、うーん、と首を傾げた。
「俺が、本当は二アース出せる?
だったら、なぜ、今は出せないのさ?」
「、、おそらく、、波長が乱れているから、、。
だから波長を合わせるのよ、、チェコ、、。
きっと二アース出せるはずよ、、」
波長を合わせる?
チェコは眉間に皺を寄せて考えた。
それって…。
波長って…。
何…?
チョン、とちさが、チェコの手の平に乗っかってくる。
「考えないで…。
、、大きく息を吸って、ゆっくり吐くのよ、、」
チェコの心に、ちさの声が届いてくるようだ。
、、自分で自分の限界を決めちゃあ駄目、、。
ただ、お日様の光に包まれて、昼寝をするように、気持ちを広くして、、
自分の体よりも広ーく、広ーく、お空いっぱいに広がるように、、
ゆっくり大きく息をするのよ
チェコは、パチリ、と目を開いた。
あれ…。
なんか、少し眠ったみたいだ…。
凄く体が軽くなっていた。
「チェコ、アースを出しみて」
ん、と手を広げるように、自然な気分でアースを浮かべた。
空中に、二つのアースが浮かんでいた。
「うわぁ!
ちさちゃん、二つ、アースが浮かんでるよ! 凄っー!
よ…、良かった…。
一つだったら、どうしようかと思った…。
ちさちゃん、ありがとう!」
「、、あなたの、、本当の実力なのよ、、」
ちさは呟くが。
チェコは既に、にへん、と悪い笑いを浮かべていた。
「「これならさ、ちさちゃん」
チェコは、薄く笑った。
「新しいスペルカードが、作れそうだよ」