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ワニ
周囲は、赤茶けた泥と枯れた草と、弱った木々の織り成す陰鬱な風景だったが、ヒヨウが選んだ場所は、石と砂利の水辺だったので、泥に嵌まる心配もなく湯に浸かれた。
「ぬるいのに、体が暖まる気がするね」
「ああ。
温泉の効果だ。
顔や頭もこうして…」
ザブザブとヒヨウは湯を被った。
「よく、流しておくと良い」
チェコは、もとより殆ど泳いでいた。
「でも、ゆっくりしていていいのかな?
西側斜面には、何かがいたのは間違いないよね?」
ヒヨウは、ああ、と頷くが…。
「この辺は、魚も住まない沼だから、生物が元々少ない。
おおよそ、肉食獣が入ってくる場所ではない。
安心し過ぎてはいけないけどな」
そのヒヨウの目の前を、血相を変えてチェコが走りすぎた。
「ヒヨウ!
ワニが!
ワニが水の中にいた!」
こんなにデッカイ、と両手を広げる。
「ああ。
それは沼サンショウウオだ」
ヒヨウは、ポカポカと、のんびり顔で教えた。
「ふざけて近づくと噛まれたるするが、向こうから人間に近づくことは、滅多に無い」
ヒヨウは沼を見回した。
「前より、生き物が増えたようだ。
川の流れでも変わったのかもしれないな…」