湯
巨大な石の塊が、地面を突き破って伸びてくる間を縫うように、チェコたちは岩の間を登っていく。
石は苔むし、周りの木々も苔に覆われ、地面さえも緑の苔で埋まっていて、とても滑りやすいため、登る速度は、ごく遅い。
巨石の周りを、まわるようによじ登り、そこから又、深い谷地へ降りていくと…。
独特の、強い臭気が鼻を刺す。
緑一色だった苔の森から、その谷地は赤錆たような岩肌が露出するようになっていた。
驚く程急速に、苔は、剥き出しの岩肌に変わり、木々も石も、赤錆た色に染まっていった。
「もう、そろそろ毒マミ沼だ。
この辺は大丈夫だろうと思うが、風向き次第では空気自体が毒になることがある。
この、ツンとくる臭いが強くなったら、空気の良い場所に避難するんだ」
ヒヨウが注意を促す。
赤茶けた森の中に、黒く淀んだ毒の沼が見えてきた。
用心深く沼に近づくと、ヒヨウは指を水面に差してみる。
「うん。
なかなかの湯加減だ。
源泉は卵が茹でられる温度だから、ここらでも、ぬるめだが湯と言ってもいい。
手早く、体を洗ってしまおう」
ヒヨウが言うや否や、チェコは一瞬で裸になり、沼に飛び込んだ。
「ウヒョー!
なんか、肌がピリピリする!」
ヒヨウは丁寧に服を畳んで沼に入り、
「あまり長時間入れる湯ではない。
手早く洗って、出るぞ」
タッカーは、慣れない着物に手間取っていたが、静に沼に入った。
確かに、肌がチクチクするようだが、ぬるめの良い湯だった。
「ほっ…」
思わず、溜め息が漏れた。