虫
「ぼっ…、僕、虫とか、とっても苦手なんだ!
あの足とか、もー駄目なんだけど…、特に、体の中に入り込む虫なんて…、虫なんて…、絶対嫌だあぁ!」
タッカーは、慌てて体を確認するように、手のひらで全身を擦る。
「白い小さな卵だよ。
よく、毛とかに付いて、体温で孵っちゃうんだ」
ひぃ、とタッカーは恐慌状態に陥った。
「体も洗ったのなら、そう心配する事もないが、この先の毒マミ沼で体を洗えば安心だろう。
俺も、汗を流してしまうかな」
「え、沼って、入れるの?
よく、底なし沼とか、泥だらけのイメージがあるけど」
「水は毒があるのだが、逆に卵などはすぐ死んでしまうので都合がいい」
毒か…、山って言うのは、虫とか毒とか、オオアギト草とか…。
と、タッカーは、げんなりと俯いた。
「確か、その上流は温泉なんじゃなかったっけ?」
チェコの言葉に、タッカーは一変して喜色を浮かべるが。
「ああ。
毒マミ沼の毒は、要するに温泉成分のせいだ。
上はなかなか良い湯なんだが、残念だが今回は、ゆったり温泉浴という訳にはいかない。
沼で我慢してくれ」
「…僕は、虫の卵さえとれれば、何だっていいよ」
溜め息混じりに、タッカーは言う。
「大丈夫だよ、タッカー兄ちゃん。
俺、ウスバ虫のウジを潰すの、得意だから!」
チェコが言うと、ヒヨウも。
「ああ。
爪で摘まんで、針でえぐり出すのは、ちょっと面白いな」
二人が笑い、タッカーは、
「笑い事じゃないよ、止めてよ、二人とも…」
と、項垂れた。