ウスバ虫
身だしなみに気を配るコクライノのダウンタウンボーイ、タッカートラッテーロは、アンダーウェアの着替えは持っていたが、さすがに上着は、もうなかった。
一枚あった予備は、昨日、地雷虫に吹き飛ばされた際、炭になってしまったのだ。
仕方ないので、ヒヨウの着替えを借りることになった。
「変わった着物だねぇ。
前で合わせるの?」
「エルフの服は、全て一枚の布から切り出せるんだ。もし、要らなくなっても、また縫い合わせれば一枚の布になる」
上着と、足幅の広いズボンを付け、帯を巻く。
「結構きついんだね」
「そうか?
慣れれば、むしろ気持ちいいのだが?」
チェコは横で、ウププと笑っている。
「タッカー兄ちゃん、ずごく似合うよ」
エルフの衣服のほとんどは、エルフグリーンとも呼ばれる緑の染料で作られるか、エルフレッドと呼ばれる、独特な茶色味のある鮮やかな赤で染められる。
美貌で知られる彼らが纏うと、それは漆黒の髪も伴い、ひどく鮮やかに見えるのだが…。
タッカーが着ると、どうも浮いて見えてしまう。
「まぁ、卵が孵る前に気が付いてよかったんだ。
残りを食べたら、先を急ごう。
どうも、さっきの西側斜面の騒ぎが気にかかる」
「でも、ずいぶん前の事なんじゃないの?」
チェコが、問う。
確かに午前中の話で、三人はその後、何時間も眠っている。
「そうなんだが、ただ事じゃない様子だったからな。
急ぐに越したことは無い」
「ゴ…、ゴロタかな?」
タッカーが青ざめる。
「可能性はあるが、争っていたようだから、違うだろう。
ゴロタに襲われたのなら、戦わずに逃げ出すはずだ」
いそいそと食物を口に詰めこむと、チェコたちは歩きだした。
「ねぇ、チェコ?
さっき、卵が孵っていたら大変だった、って…」
ああ…、とチェコは声を潜める。
「タッカー兄ちゃん、小さな白い卵のついた枯れ枝は、もう拾っちゃだめだよ。
ウスバ虫は、人の肌に穴をあけて、こぅ、皮膚を食べていくんだよ。
ぐにゃぐにゃ、っと、ミミズが這ったような感じに赤い筋が走るの。
だから、服は焼くしかなかったんだよ。
最初に言わないでごめんね。
まだ、季節じゃないと思っていたんだけど、気の早い虫がいたみたい…」
タッカーは、ぞっ、と自分の腕を見下ろした。