山女
昼はいない山女…。
そして、なにか、とてつもなく巨大なものの墓石のような、この沢山の巨石の群がり。
もしかして…。
もしかして…、この大きな岩と、大木をへし折る巨大なおばけの昼の居場所は、同じなんじゃあ、ないのだろうか?
そう思ってしまうと、
怖くて、
怖くて、
怖いからこそ、何だか、確かめずにはいられない…。
タッカーは、恐る恐る、厚い苔に、耳を付けていく。
何も聞こえない…。
そうは思うのだが…。
なおも、耳に神経を集中してみると…。
聴こえる!
微かな、
幽かな音が、確かに聞こえてくる…。
クゥ…カ クゥ…カ と、幽かな、しかし、生き物の立てているものらしい、地の底からの響きが、タッカーの鼓膜を微かに震わせていた…。
タッカーは、総毛立って、岩から飛び上がった。
「み…、みんな!
こ…、この岩は…、
この岩は…、山女の、寝床なんだ!」
ヒヨウは、いかに半分だけ玉子ご飯にするか、に腐心しながら、
「タッカー、あまり気にするな。
いかにおばけと言えども、山女の里というのは別にあって、そこには、連れていかれる以外では、人が入れる場所ではない。
ここは、まぁ、境界地なのだろうが、昼間は危険は無いんだ」
「でも…
でも、音がするんだ!」
タッカーは、足を震わせながら、訴えた。
ほぅ、どんな音だ…、とヒヨウ。
「幽かな、音、だよ…」
タッカーは、ゴクリ、と唾を飲み込む。
「でも、確かに、…クゥ…カ、クゥ…カと、妖精の囁きのような音がするんだ!」
「後ろを見てみろ」
ひゃあ、とタッカーは真っ青になって、
「ぼ…僕の後ろに、…な、なにかいるの…」
と、息を呑んだ。
「大丈夫だ、タッカー。
見れば判る」
ヒヨウの言葉に、タッカーが恐る恐る振り返ると。
チェコが、ふかふかの苔の上で、気持ちよく寝息を立てていた。