頭の無い鳥
木の蔓は、つづら折りの山の木々を滑車に、ぐいぐいとタッカーを引き上げていく。
チェコは、タッカーの腰に自分の肩を押し付け、懸命に押し上げていた。
タッカーは叫びを上げ続け、足を動かし続けた。
森は、もはや怒号と叫びと、混乱の坩堝だ。
タッカーの頭上を、巨大な鳥が飛んでいた。
翼だけでも、森の木々より大きな鳥だ。
しかし、その鳥には頭が無かった。
胴体に羽が生えたような、不思議な、真っ黒い鳥だった。
「うわわわわあぁぁぁぁぁぁ!」
タッカーは叫び続けるが、森の怒号の前には、蚊の鳴き声にも等しかった。
バサッ、とタッカーの横の茂みが、突然、爆発し、タッカーの身長と同じほどの大カマキリが姿を現した。
(殺される!)
タッカーが心の中で叫んだ瞬間、カマキリは背中の翅を広げると、ダダダダダッ、と石敷きの坂道を高速で下る荷馬車のような音を立てて羽ばたき、飛び去っていった。
蔓草に引かれながら、タッカーは気がついていた。
カマキリだけではない。
森の小鳥も、小動物も、小さな羽虫に至るまで、タッカーたちと同じように、急いでこの場を離れようとしていた。
足元を鼠の群れが駆け抜けていく。
つづら折れの道を横切って、本物のカモシカが山の上へと駆け上っていく。
(あ、僕、本物のカモシカを見たの、初めてだな…)
そんなことを思っていると、ヒヨウが、タッカーの横を駆け下りていく。
チェコが、タッカーから離れて、ヒヨウを追いかけた。
(あれっ…あれっ…)
タッカーはただ一人、蔓草の引くままに山を駆け上っていた。