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カモシカ
物凄い叫びを上げて、一匹のドゥーガが飛び立った。
「ひゃぁ!」
タッカーは確かに、ドゥーガの巨大な翼の先端が、頭に、ふわり、と触れたのを感じた。
何匹も、何羽ものドゥーガが、鋭い叫びを上げながら、つづら折りの急斜面の下方に飛んでいった。
山は、騒然としている。
「走れ!」
ヒヨウは叫んでいた。
森の民であるエルフ族のヒヨウは、まるでカモシカのように斜面を駆け出し始めるが、タッカーは、こんな急斜面を走った経験は皆無だ。
チェコがタッカーを引っ張る。
「タッカー兄ちゃん、
ヤバいんだよ。
急いで急いで!」
どうヤバいのか、大混乱で判らないが、状況が切迫していることぐらいは判る。
だが…。
息が上がって、これ以上は走れないのだ…。
呻くタッカーの目の前に、突然、カモシカのように走り去ったはずのヒヨウが現れると、木の蔓をタッカーに巻き付け、また去って行った。
えっ?
チェコが、ヒヨウの後を受け、タッカーを縛っている。
と、思うとーー。
つづら折りの上から、ヒヨウがタッカーを引き始めた。
自分が加速していくのを感じ、
「うわぁぁ!」
タッカーは叫んでいた。