西側傾斜
「うへぇ…、こいつが、アレやってたの?」
チェコは、黒っぽい色のバッタを見下ろす。
バッタは、チェコたちを見上げ、チチッと鳴いた後、ヒヨウの手から飛び立った。
「…つ、疲れた…」
タッカーは、ガックリと草の中に倒れ込んだ。
チェコも、続いてバサリと倒れる。
「んー、ひんやりして気持ちが良い…」
ヒヨウは二人を笑ったが、
「まぁ、悪い話ばかりでもない。
その先を曲がれば、もう西側傾斜だ。
随分、時間が稼げたぞ」
と、満足げに頷いた。
え、そうなの、とタッカーは立ち上がり、なだらかな坂を登った。
下生えの草を掻き分けると、絶壁にも近い急斜面に、疎らに樹木が斜めに生えた、崖と言ってもいい場所の麓に自分が居ることに気がつく。
「…うわぁ…」
空気が抜けたように、へなへなとタッカーは、よろめいた。
「おー、これなら、大分、楽できるねぇ」
後ろからチェコが、呑気に言う。
「え、楽なの?」
タッカーの問いに、ヒヨウが、
「つづら折りの道が出来ているから、見た目ほど辛くは無いはずだ。
ここで一気に二百メートルばかり標高を稼ぐ。
その先が石の墓地で、毒マミ沼、イヌワシ峠と続いている。
まだ、この辺は危ないから、石の墓地まで登ってから、ゆっくりと休もう」