昆虫
「びやぁぁぁぁ!」
鼻水を垂らしながら、タッカーは絶叫していた。
チェコも、取り乱しながら、
「こ…、攻撃を…」
と、スペルを発動させようとするが…。
チェコが雷を放つ寸前、ヒヨウが、
タッカーとチェコを押すように、道の横の草むらに、飛び込んだ。
混乱してチェコが悲鳴を上げた。
三人は、絡み合うように草の中を転がった。
「落ち着け!」
ヒヨウが叫ぶ。
だが、昆虫は、すぐそこに迫って来る。
「うわぁ!
動けないよぅ!」
チェコがじたばたと暴れるが、ヒヨウは、よく見ろ、と草の中で巨大昆虫を指差した。
「あんな虫が、あると思うのか?」
へ…。
チェコは、ヒヨウに言われて、改めて虫を見た。
それは黒く、巨大で…。
なんだか、ぐにゃぐにゃと、形が定まらないようだった。
「あれ…
えっ、一体、どういうこと?」
チェコは巨大昆虫を見つめた。
「あれは虫山だ。」
ヒヨウが、ゆっくりと教えた。
「虫山…?」
チェコは、首を傾げる。
「そうだ。
小さな虫は、時折、ああいう風な巨大な虫のフリをすることがある。
原因は不明だが、生殖行為という話しもある。
見ろ…」
三人のいる草むらが、突然、真っ黒い影に入った。
ヒヨウが、パッ、と手を振る。
手のひらには、小型のバッタが、けろっ、とした顔で三人を見上げていた。