キャサリーンのお願い
「さあ、ハナ、箱に戻りなさい」
ハナは、人間には聞こえない声で、なにか囁き、箱に戻った。
「あんたも好きねぇ」
キャサリーンが唱えると、箱が閉じていった。
「妖精って、可愛いなぁ…」
チェコは自分の、妖精の乗った手を撫でながら、言った。
「その可愛いハナが、悪者に狙われているのよ。
東のウォーターゲート街道でこの馬車が追い付かれ、私は慌ててテレポのスペルをかけ、運悪く、この森の真っただ中に落ちてしまったの。
でも、君に会えて、本当に幸運だったわ。
できれば、この森を突っ切って、向かいのハジュクの街に出たいんだけど、手伝ってくれないかしら?」
チェコは慌てた。
「ダメダメ。
この森は絶対に向こうには行けないんだよ。
禁足地って知ってるでしょ?
この先には、鬼の古井戸と呼ばれる大きな穴があって、ここには冥府の鬼が昼間でも生き物を皆、引き摺り込んでしまうんだ。
だから、ハジュクに行きたいなら、一番の近道は森の外にある二ッ角山脈を迂回する街道を通ることだよ。
たぶん、明後日には着くから」
赤い髪の美女キャサリーンは顔を曇らせた。
「言ったでしょ。
悪い奴らがハナを狙ってるって。
街道なんて行けないのよ」
うーん、とチェコは考え。
「そしたら、もう、リコの村に戻って、そこから二ッ角山脈の黒龍山から、頂上にある四里の吊り橋を渡って、向かいの赤竜山を降りてハジュクに行くしかないねぇ」
「バカ、チェコ、黒龍山は去年も人死が出た場所。
女子供、通る、ルート、違う!」
キャサリーンは、チェコの手を、両手で挟んだ。
「お願いよ。
はっきりとは言えないけど、もしハナが奪われでもしたら、大変なことになってしまうの!」
チェコは、焦って、真っ赤になった。
「そうだわ。
スペルカードをあげるわ。
どれでも、好きなカードを選んで」
言うとキャサリーンは、大きな本を取り出した。
スペルカードを、一ページ九枚、収められるファイルブックだった。