ゴロタの餌
「ちょっと、鳥の鳴き声が少ないかねぇ?」
チェコが、タッカー越しに、ヒヨウに声をかける。
ヒヨウは、頭上の緑深い樹林を見上げ、
「そのようだな…」
言葉少なに、呟いた。
タッカーは、ハァハァ、荒い息をしながらも…。
「えーと…。
何か…、異常が…?」
ヒヨウは、まだ判らん、とだけ答えた。
だがタッカーは不安げに、
「ねぇ、チェコ。
鳥が鳴かないの?」
うーん、とチェコも首を傾げる。
「俺は、だいたい、こんな森まで来たことないから、はっきり判らないんだよ。
ただ、鳥が鳴かない、とすれば、何かを感じている怖れもあるかも、としか、ね」
ヒィ、とタッカーは、音を立てて息を吸い込むが、ヒヨウはハッキリと言う。
「ゴロタにとって、小鳥は餌ではない。
あの巨体の餌になるのは大型動物や巨大昆虫など、だ。
だから、小鳥の鳴き声の過多でゴロタが動いている、とは言えない。
だが、少しペースを上げるぞ」
言うヒヨウの額にも、汗が流れる。
ペースが上がり、タッカーはめっきり無口になったが、ふと気づいたのか、
「チェコ。
今、大型昆虫、とか言わなかった?」
「言ったよー?
どうしたの、タッカー兄ちゃん?」
「む…虫って、そんなに大型になったっけ?」
アハハ、とチェコは笑い。
「やだなぁ、召喚カードにだって、巨大蜘蛛とか、あるじゃんか?」
「ええっ!
あーゆうの、この森にいるの?」
「いるいる!
トレースのスペル、用意しておいた方がいいよ!」
チェコは、いつの間にか、しっかりトレースのカードを握りしめていた。