黒龍山
「昨日ぐらいの足跡かなぁ。
草が青いし…」
チェコが言う。
「それならいいのだが、もしかするとプルートゥの騒ぎでゴロタが起きてしまった、とも考えられる。
そうだとすると、荒れているかもしれないし、ちょっとマズい。
ともかく石の墓地まで急ぐことにしよう。
普通ならば、あっちまで、ゴロタは来ない」
ヒヨウは、あらためて山を進み始める。
速度は、前と変わらない。
しかし、あちこちに注意し、用心深く歩いている。
「…今のところ、ゴロタはいない感じなのかい?」
タッカーが、不安げに聞く。
「ゴロタはね、頭が良いの。
もし、つけられていても、人間なんかが判るハズ無いんだよ」
チェコが、パシパシと草を叩きながら言った。
「あ…、あのさ…、
音とか立てて平気なの…?」
「ゴロタの気分次第だな。
上機嫌なら、人間が歩いてるな、ぐらいだろう。
怒っていたら、どっちにしろ、どうにもならない」
ヒヨウが教えた。
森を少しずつ登り、ちょっとした急傾斜を越えると、朝焼けの空に、遠く霞んで、巨大な遠吠え川が、緩やかなカーブを描きながら広大な大地を横切って流れていた。
眼下に広がった一面の大地は、遥か東のコクライノまで見渡せるのだが、今は微かな朝靄で、地平線の果てに沈んでいた。
登りたての朝日を浴びながら、チェコたちは、山の裾野を巡り、そこから、更に大きく聳える黒龍山の中に入っていった。