足跡
村の外では、既に早朝の空気が流れていた。
夜よりも、むしろ冷え込んだ朝闇の森を、三人は歩いた。
虹カマスの湖を背後に、深い森に入って行く。
「イヌワシ峠への最短距離は、ここからゴロタの森を突っ切って、西側傾斜から石の墓地に抜け、毒まみ沼を抜けるルートだ。
ゴロタが目を覚まさないうちに、陽が昇る前にゴロタの森を抜けてしまおう」
ヒヨウを先頭に、三人は歩き始めた。
「ねぇヒヨウ君?
ゴロタって、相当、恐ろしいってパトスが言ってたけど…」
ヒヨウは、タッカーに、自分の歩いた足跡を踏むように歩け、と指示して歩いていた。
チェコと二人のときよりは、はるかに遅いが、タッカーにとっては息が荒れる程の山道だった。
「ああ。
熊も十年を経るとゴロと呼ばれる。
ゴロは、もぅ、そこら辺の熊とは別のものだ。
黒龍山にも、ゴロレベルの熊は、おそらく十頭もいないだろうが、二十年、三十年を経た熊のことをゴロタという。
これは、もう魔物と言ってもおかしくない生物だ」
「ま…、魔物?」
タッカーがよろめく。
チェコは、タッカーの後ろで、木の枝で草を叩いたりしながら進んでいた。
「俺が最後に見たのは昨年だったが、鳥追いのスペルでドゥーガを落として食べていた。
もう、人が相手にできる生物じゃない」
ひぃ…、とタッカーは、再びよろめいた。
が、そのまま転倒してしまった。
「タッカー兄ちゃん!」
チェコは、すぐ、その穴に走ってタッカーを起こした。
大丈夫? と聞くチェコに頷きながら、タッカーは周りを見回した。
チェコの背ほどの直径はある、大きな穴だ。
深さも五十センチに近い。
「これって…」
草が、一面に倒れている。
「ああ、これがゴロタの足跡だ」