箱の中
「私は、主と認めた方に限り、様々なサーヴィスを提供できる」
魔石が、低い男性の声で言った。
「えっ、
えー、どんなサービス?」
「例えば、あなたが知りたいと思ったことを私に問えば、私はアースの無限図書館から検索した答えを提示できる。
また無限図書館には、映像メディアや音響メディアも保管されているため、貴方は音楽、絵画、様々な動画の閲覧も可能だ。
さらに別な魔石使用者と通信が出来る他に、手紙のやり取りも可能である。
さらに、画像、映像、音響の記録や、そういった情報の他の魔石への転送もでき、さらに無料のゲームを楽しむこともできる。
なお主は未成年フィルタがかかっているため、一部コンテンツの利用は制限されている」
落ち着いた男の声で、魔石は説明した。
「うわぉ! 凄げー、まるでスマホみたいじゃーん!」
「チェコ? スマホって何?」
うんざりとパトスが呟く。
「何これー、こんな高性能な魔石、見たことないわ!
これってセブン? いいえ、幻のテンなのかしら!」
赤い髪の美女も叫んでいた。
「凄いわ、凄いわ!
アースが出るだけで、皆、大喜びなのに、無限図書館と常時接続の魔石なんて!
君、何者なの?」
チェコは、焦って、
「俺、チェコ…、アル…、デンテ?」
「アルデンテ家なんて聞かないわねぇ。
アモーレ王国あたりの貴族かしら?
でも、あの辺の人が金髪金瞳には、あまりならないはずだけど…、まぁ、いいわ。
君!」
美女はチェコの肩をがっちり掴んで。
「私、君に惚れたわ。
実は、私、キャサリーン・ギブツは、悪い人たちに追われているのよ。
彼らが狙っているのは、これよ」
真っ赤な髪の美女、キャサリーンは、五十センチ四方もありそうな箱をチェコたちに見せた。
「いい。開けるわよ」
キャサリーンは、赤い髪を額に、パラリと垂らしながら、囁いた。
「ちょっとだけよ…」
五十センチ四方の箱の扉が、音もなく開いていく。
中から、金色の輝きが零れてきた。
えっ、とチェコが覗き込むと…。
それは、チェコの手の平ほどの、金色に光る、人、だった。
「よ…妖精?」
「そう。
この子は、ハナって言うの。
ハナ、この男の子はチェコ、こっちの小さなお友達はパトスよ」
金色に光る妖精は、背中の、蝶のような翅を緩やかに羽ばたかせ、滑るように空中を移動すると、チェコの手に止まった。
「わぁ…、君って、軽いんだねぇ…」
チェコは、歓声を上げるが、キャサリーンは、厳しい視線をチェコに向けていた。