宮殿
一時間ぐらいは過ぎていたはずだが、村には、まだ盛んに炎が上がっていた。
チェコは用心深く、井戸から顔を覗かせ、辺りを伺ってから外に出た。
「あれ、まだ燃えてるよ…」
「チェコもそう思ったか。
どうも、ここに入った時から、被害状況が変わっていない気がするのだが…」
「あ、これ?」
タッカーは、木造家屋を振り返った。
「これは、実は女王の、高度な自然魔法なんだよ。
もちろんプルートゥさ…、プルートゥに壊された部分もあるんだけど、被害を最小限にするため、わざと魔法の炎で燃やしているのさ。
それでも…」
と、タッカーは、顔を曇らせ…。
「沢山の人が死んだ…。
僕を守るために死んだ仲間も大勢いた…」
タッカーは、言葉を飲み込み、泣き笑いのような表情になって、焼けた村を見つめた。
タッカー兄ちゃん…、とチェコは何かを言いかけるが、言葉が見つからずに、俯いた。
「ガウル様の考えは、エルフの信仰に近いものだった。
だから、ガウル様の伝えたかったことが、俺にも分かるのだが、自分のせいで…、と考えてはいけない。
全ての物事には、神の意思が働いているのだ。
蝶が蜘蛛の巣にかかるのも、また神の意志。
蝶がそうなように、彼らは、そうすべき時に、そうすべき、という自分の心の中の神と対話をし、納得して、すべきことをしたんだ。
お前は神に生かされた。
そこですべきことを、自分の心の中の神に問う事が、お前の心を救うだろう」
タッカーは寂しく笑って、
「僕の知ってる神様は、してはいけないことをズラズラ紙に書くだけだったよ…」
呟くが…。
「さぁ」
と、ことさら大きな声を出し、
「じゃあ宮殿を案内するよ!
二人とも、驚くぞ」
気を取り直して、歩き出した。