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帰港

長らくお待たせいたしました。

 その日、マイガーさんと店の買い付けに行くことにしていた私は港に来ていた。


「お嬢、この布可愛い」

「こちらの布も手触りが良いですね」


 二人で、ああだこうだ言いながら船の積み荷を物色していく。

 護衛騎士二人は少し離れた所からこちらの様子を伺っている。


「お嬢、兄弟が帰ってきたら優しくしてやりなよ」

「?」


 突然言われた言葉に驚いてマイガーさんを見れば、ニコニコと笑っていた。


「寂しかったと言うように王妃様から言われているんです」

「それは良い。あいつスッゲー喜ぶと思うよ」


 マイガーさんの笑顔に私も笑顔を返した。


「実際、殿下が国内に居ないと聞いて………何かつまらないと感じている自分が居るの」

「兄弟に惚れた?」

「いえ、解りません」

「即答は可哀想だよ」


 マイガーさんはクスクス笑った。


「俺もお嬢に居ないと寂しいって思われたい」

「マイガーさんは居ないと困ります。稼ぎ頭でしょ?」


 マイガーさんはヘニャっと笑った。


「最高の誉め言葉だね。恋愛要素は0だけど」

「恋愛要素は要らないでしょ?」

「お嬢が冷たい」


 実際、恋愛要素とは何なのかいまだに解っていない自分である。

 マイガーさんに求められても出すことが出来ない代物である。

 その時だった。

 港が騒がしくなったのは。


「どうやら、兄弟が帰って来たみたいだね」


 マイガーさんの見る方を見ると大きな船が港に入ってくるのが解った。

 

「お嬢、出迎えてやろうぜ!」


 私はマイガーさんについて船の停留所へ。

 遠目から見てもでかい船だったが、近づけば近づくほど相当でかい船だと解った。


「あ、兄弟が出てき……」


 マイガーさんが指差す方を見れば殿下が降りて来るところだった。

 マイガーさんの言葉が詰まった理由は真っ赤なフワフワの長い髪の毛に獣の耳がついた人物が殿下の腕にしがみついていたからだと思う。

 長袖のわりに、お腹が出るほど丈が短いうわぎに、太ももまでしかない短いズボンに膝上の靴下。

短いズボンから細く長い尻尾が延びている。

 耳も尻尾もフワフワで瞳は金色パッチリ『可愛い』を形にしたような子。

 年齢は10歳ぐらいだろうか?

 後数年もしたら妖艶な美人になるんじゃないだろうか?

 そう、殿下は少女とおぼしき獣人を腕にぶら下げて居たのだ。

 これは、もしかして……またなのか?

 婚約破棄という言葉が頭をよぎった。

 私がフリーズしているとマイガーさんが心配そうに私の顔を覗きこんだ。

 私は何時もと変わらない笑顔を作って見せた。


「お嬢!俺あいつの事、ちょっと殴ってくる」

「へ?」

「お嬢にそんな顔させるなんて許せねぇよ!」

「そんな顔って……」


 私はどんな顔をしただろう?

 そんなことを思っている間に殿下がこちらに気がついたようで、こっちに手を振ったのが見えた。

 どうしよう。

 手を振り返せば良いのだろうか?

 私が悩んだ瞬間、目の前に白い猫耳のついた女性が現れた。

 そして次の瞬間には護衛のバリガさんに抱えられ目の前には、これまた護衛のルチャルさんが剣を構えていた。

 何がおきたのか解らず周りを見れば、マイガーさんが白猫の獣人さんを地面に押さえつけていた。


「離せこのやろう!この国の男は女に暴力をふるうのか!」

「お嬢に害なすやつは、女だろうが子供だろうが容赦はしない」


 マイガーさんの冷たい声にただ事では無い何かあったのだと解った。


「マイガーさん、何があったのか解らないのだけど」

「この女がお嬢に爪をたてようとしたからお仕置きだよ」


 私の言葉にマイガーさんは何時もの口調でそう言った。

 見れば彼女の爪は鋭く尖っていた。

 私、狙われたのか。


「ミーヤ何やってるんだ!悪いマイガー離してやってくれ」


 慌てたように殿下が走り寄って来るとマイガーさんは殿下を睨んでから彼女を離してあげた。


「ルド兄様嫌だ!その人恐い!」


 殿下が安心したように息を吐くと殿下にくっついていた少女が怯えたように殿下にしがみつき私を指差した。

 

「恐いって言われてもな……シュナ、彼女は俺の婚約者だぞ」


 少女は殿下を見上げると絶望的な顔をした。


「……厄災の臭いがするのに?」

「厄災?」

「恐い!」


 何だか解らないが怯えられているのは解る。

 私は殿下に頭を下げると言った。


「殿下、お帰りなさいませ。何やらお話が出来る状況ではなさそうなので後日あらまためて、お城にうかがわせていただきます。では」

「ユリアス」

「はい」

「すまない」


 殿下は困ったような顔でそう言った。

 その言葉に、私の心の中はモヤモヤとしたものに覆われた気がした。

 こんな気持ちになったのは初めてだ。

 私は営業スマイルを顔に張り付けて、もう一度頭を下げると、その場を後にしたのだった。

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