初恋の人 護衛騎士バリガ目線
自分の名前はバリガと言います。
商家の三男として生をうけた騎士です。
見た目が女性的な自分は女性に間違われることが普通で男らしいとは無縁で、鍛えても目に見えてつかない筋肉に嫌気がさすのも日常でした。
そんな自分には好きな女性が居ます。
伯爵家のユリアス様です。
彼女にはじめて会ったのは彼女が10歳ぐらいの時で、彼女の美しさと聡明さに我が兄弟全員一目惚れしたと言うのは今では笑い話であります。
そんなユリアス様が婚約したと聞いたときは、この世の終わりだと本気で思い夜な夜な涙で枕を濡らしたのも最近の事でした。
ユリアス様の婚約者が商家の中でもカモと呼ばれる上客だったと言うこともあります。
勿論、悪い意味で上客なのです。
得体の知れない置物や調度品は侯爵に売り付けろと言われるほどの目利きとは程遠い人物の息子との婚約に自分以外の商家の息子も絶望に涙を流したものです。
そんなユリアス様が婚約破棄したと聞いたときは町中の商家の息子が贈り物をユリアス様に送りました。
自分もその一人です。
その後、ユリアス様からお礼状が届きました。
『この度は傷心の私のために素敵なプレゼントをありがとうございました。貴方様からのお心遣いに心が温まるようでした。今後ともノッガー伯爵家と仲良くしてくださいませ。 』
短い手紙だったが、自分の宝物である。
このまま、ユリアス様と親しくなりゆくゆくはユリアス様を自分の嫁に………
などと考えていたら、ユリアス様はあっさりと国のトップである王子殿下と再婚約。
自分は未来の国母の護衛騎士に任命されました。
愛する人を一番近くで護れる幸せとけして手にはいる存在ではなくなってしまった絶望の狭間で自分はもがいていました。
ユリアス様の護衛騎士に任命されたのも女性的な顔立ちから男と意識されないだろうと言う理由で選ばれただけだと後で知って悲しくなったのも良い思いでです。
ユリアス様は殿下を愛している。
たぶん。
前に………王子殿下の執務室で………き、き、………キスなさっていたようだし………ズビッ………な、涙が………
兎に角、自分には王子殿下など関係ない!
これからはユリアス様を生涯護りぬけば良いだけの話だ。
それに、王子殿下は獣人族の国で多発する子供の誘拐事件の応援で獣人族の国に行き、三ヶ月も帰ってきていない。
これはチャンスかも知れない。
ユリアス様が王子殿下が嫌だと言ってくださるなら、自分はユリアス様と一緒に逃げても良い。
ユリアス様が王子殿下に愛想つかせば………
「バリガさん」
「はい。なんでしょうか?ユリアス様」
「あの、お聞きしたいことがあるんですが………良いですか?」
「勿論です!なんなりと」
ユリアス様は顔を少し赤らめて言い辛そうに視線をそらした。
なんて可愛いらしんだ!
ユリアス様のそんな可愛らい顔、誰にも見せたくない。
同じ護衛のルチャルが邪魔だ。
「ユリアス様必要なのはバリガだけですか?」
「いえ、そうでは………ルチャルさんにも聞きたいのですが、あの、王妃様に殿下が帰ってきたら寂しかったと言うように言われたのですが………寂しかったと言われるのは嫌ではないですか?」
なんだその残酷な質問は?
「そりゃ嬉しいですよ!な、バリガ」
「………ああ」
「あの、あと、殿下と言うよりルド様と言う方が喜ぶと言われたのですが本当ですか?」
ルチャルはニコニコしながら言った。
「そりゃ、王子は名前で呼ばれる事あんまりないから名前で呼ばれた方が特別感が出て嬉しいと思いますよ」
ユリアス様は自分に同意を求めるように自分を見上げてくる。
「………喜ぶと思います」
ユリアス様は顔を赤くしたまま自分の騎士服の裾を掴むと上目使いに言った。
「練習するので、付き合っていただけますか?」
か、可愛い!!
プルプルしながら真っ赤な顔で上目使い。
抱き締めて良いだろうか?
連れて帰って良いだろうか?
「ユリアス様、僕も練習付き合いますよ!」
「ルチャルさんありがとうございます!どうしても恥ずかしくて上手く言えないので助かります」
すぐに自分から離れルチャルのの右手を両手で掴むユリアス様。
ずるいぞルチャル。
つい睨むとルチャルはニヤッと笑った。
む、ムカつく。
「バリガ、殺気飛ばさないで」
「飛ばしてない」
「無自覚かよ」
ユリアス様はキョトンとした後気にせずルチャルの手を握ったまま『殿下が居なくて寂しかったです』を連発していた。
それはむしろ、ユリアス様が己に暗示をかけているようにも見えて複雑な気持ちになった出来事だった。