寂しいとは
王妃様にお茶に呼ばれたのは、麗らかな日和の初夏だった。
「ユリアスちゃんも最近は寂しいんじゃなくて?ルドニークから手紙ぐらい来てるのかしら?」
王妃様の言葉に、殿下が何処かに行っているのだとはじめて知った。
「手紙の類いは………」
「三ヶ月も留守にするなら手紙ぐらい出したってバチは当たらないでしょうに!ねぇ~」
三ヶ月も居なかったとはじめて知りました。
殿下、気が付かずごめんなさい。
「でも確か、ユリアスちゃんが開発した缶入りクッキーを大量に持って行ったみたいだから食べるのには困って無いかしら?ユリアスちゃんは今、どんなものの開発をしているのかしら?」
そういえば、殿下が三ヶ月前に軍事用に開発した非常用クッキー缶(激堅)を大量受注してくれていた。
殿下なら帰ってきたらレポートを提出してくれることだろう。
「今は建国記念日に打ち上げる花火の開発をさせていただいております」
「まあ、あの、言いにくい事なんだけれど………」
「はい」
王妃様は眉を寄せて困ったように言った。
「あのね。今回の建国記念日には獣人族の要人を招くことになっていてね。ほら、獣人族って耳が良いから花火の音がとっても苦手らしいのよ。だから、花火は打ち上げられないの」
なんて事だ。
せっかくの計画が台無しではないか。
そうか、獣人族の人には会ったことが無いけど耳が良いのか。
私にも知らないことがいっぱいだ。
とくに獣人族の事はなにも知らないと言って良い。
「ちょうどルドニークが獣人族の国に行ってるのよ」
なら、殿下が帰ってきたら色々聞いてみるのも良いかもしれない。
獣人族の特産はなんだろうか?
私が次の構想をねっていると王妃様がクスクスと笑った。
「ユリアスちゃん楽しい?」
「……はい」
「ルドニークが居ないの気が付いて無かったでしょ」
図星をつかれて思わず黙ってしまった。
「ルドニークはきっとユリアスちゃんに心配をかけたくなかったのね」
「心配ですか?」
「獣人族の国は治安が良いわけではないの。力がすべての国だからこそなんだけれど……そんなところに行くなんて言ってユリアスちゃんが不安になるんじゃないかって心配したのね」
たぶん違う。
殿下なら私が土産や特産物の輸入権やらを欲しがると解っているから言わなかったのだ。
最近何か物足りない感じがしていたのは殿下のツッコミが無かったからか。
殿下が居ないと思ったら、何だか寂しい気がしてくるのが不思議だ。
「ユリアスちゃん、寂しい?」
「………まあ、そうですね」
「ユリアスちゃんが寂しがってたって言ったらルドニーク喜ぶと思うわよ」
「そうでしょうか?」
私が首をかしげると王妃様はまたクスクスと笑った。
「ユリアスちゃん、ルドニークが帰ってきたら『ルド様が居なくて寂しかった』って言ってご覧なさいルドニークはきっと船旅の疲れが全部とれちゃうから!ほら、練習。言ってみて」
そんなことで船旅の疲れがとれるのだろうか?
「………殿下が居なく」
「ダメダメ!〝ルド様〟ってのもポイントなんだから!」
「そ、そうなんですか?」
私は一つ咳払いをしてから言った。
「る、ルド様が居なくて………さ、寂しかった……です」
何だか言ってて恥ずかしくなってきた。
「可愛い!!それでルドニークはユリアスちゃんにメロメロね!」
何だか王妃様に精神力をガリガリ削られるお茶会であったのだった。