俺の婚約者 ルドニーク殿下目線
殿下目線です。
俺はこの国の王子。
名前はルドニーク レイノ パラシオだ。
新しく出来た婚約者であるユリアス ノッガーは俺のことを『殿下』と呼ぶ。
名前で呼ぶことはない。
いや……たまに『ルド様』と愛称で呼んでくれる事があるが、あれは心臓に悪い。
心臓を鷲掴みにされたように苦しくなる。
これは、俺が彼女に恋心を抱いていると言う証拠だろう。
最初、彼女を好きになることなど無いと思っていたが彼女の人としての魅力には勝てなかったのである。
………………この気持ちを彼女も持ってくれていれば話は早いし苦労はない。
だが、そうも行かない。
彼女は恋がどんなものか知らないし、必要性も感じていない。
そんな彼女が、ずっと嫌がっていた俺の婚約者になった事で俺を好きかもしれないと思ったのが間違いだった。
彼女の中では俺は親友のようなもので、そんな友情から子供を作るぐらい手伝っても良いと思っているようだ。
それが解った時の俺の絶望感を察して欲しい。
彼女はどうしたら俺を好きになってくれるのだろうか?
「どうしたらユリアスは俺を好きになってくれるのだろうかと考えているんだが、いい案はあるだろうか?」
とりあえず、俺の仕事の手伝いに来ていた側近でユリアスの兄であるローランドと乳兄弟のマイガーに聞いてみた。
二人はその言葉に俺を見詰めて固まった。
最初に口を開いたのはマイガーだ。
「それが解ったら俺、先にやってるよ」
マイガーの言うことは一理ある。
マイガーもユリアスを好きな男の一人だからだ。
「お金をつめばどうです?」
ローランドは興味が無さそうである。
「ローランドだって妹が恋をして幸せになった方が良いだろ?」
「はっきり言わせていただけるのであればあなた様はユリアスの婚約者にちゃっかりおさまり、更に心まで奪おうとは図々しいにもほどがある男ですね」
敵意が半端ないのはローランドがシスコンだからだ。
そんなことは百も承知だ。
「図々しいのは解っているのだが、ユリアスを幸せにしてあげたいのだ」
俺の純粋な言葉にマイガーが言った。
「お嬢を幸せにしたいのは俺もだよ」
「マイガー、殿下に騙されるな。ユリアスの恋心が殿下に向いたら幸せなのは殿下だ」
「うわ!卑怯だぞ兄弟!」
純粋な気持ちだったのだがよくよく考えれば、それもそうだ。
俺はそれで幸せになれる。
その時、執務室のドアがノックされた。
許可を出せば、ドアを開けて入ってきたのはユリアスだった。
「差し入れに来ました」
ユリアスはニコニコしながら手に持ったバスケットを俺に手渡した。
バスケットには美味しそうなクッキーが沢山入っている。
1つつまんで口に運ぶと、堅い。
「堅いな」
「ええ、日持ちも腹持ちも抜群です」
「………レポートを書かなければいけないやつか?」
「軍事遠征用と気付いていただけて話が早くて助かります」
嬉しそうに笑うユリアスが可愛く見えるのは俺が彼女に恋しているからだろう。
「みんな、こんなに堅いのか?」
「そうです。堅い方が食べごたえと満腹感を感じられますから」
「そうか………君のおすすめはどれだろうか?」
俺が一枚目のクッキーを苦労しながら食べているとローランドがお茶を淹れてくれた。
助かる。
しかもクッキーは口の中で水分を含むと膨らむ。
結構良いかも知れない。
「私のおすすめはチョコ味です」
ユリアスは俺にチョコ味のクッキーを手渡そうとバスケットから取り出して固まった。
俺の手には食べかけのクッキーと紅茶のカップがあったからだ。
「殿下、はいア~ン」
「えっ?いや、それは」
ユリアスはニコニコしながら俺の口元にクッキーを運ぶ。
な、なんか、これは照れる。
仕方なく口を開いたがクッキーは堅くて噛みきれない。
は、恥ずかしい。
駄目だ誰かに助けを求めなければ!
そう思って、ローランドとマイガーを見れば殺気を俺に向けていた。
マジか!助けてくれる人間はこの部屋に存在していない。
漸く噛みきれて顔を上げるとユリアスが少し顔を赤らめてこっちを見ていた。
「な、なんだ?」
「いえ、まさか口を開いていただけると思ってなかったものですから」
それは、やらなくて良かったってことか?
とんだ赤っ恥をかいた!
文句を言ってやろうと思い口を開こうとしたら、ユリアスは口元に笑顔をのせていった。
「今度はもっと食べやすい物を食べさせてさしあげますね」
「食べ……」
「手ずから食べていただけるのは、何だか婚約者の特権と言った感じがして面白いです」
な、なんて可愛い顔で可愛い事を言うんだ!
や、ヤバイ!心臓がヤバイ!!
俺が彼女を見詰めていると、マイガーが彼女の足元にしゃがんで見上げた。
「お嬢、俺にもアーン」
ユリアスはそんなマイガーのおでこを指で弾くと言った。
「マイガーさんは両手ふさがってないでしょ?」
「デコピン、御馳走様です!」
「はっ!思わず………ドMを喜ばせてしまった」
ユリアスの視線がマイガーにうつったが良かった。
たぶん俺は今、顔が真っ赤に違いないからだ。
ローランドが水を運んできてくれて俺は少し落ち着いた。
「ローランド」
「なんでしょうか?」
「ユリアスは俺を好きだろうか?あれは、素だろうか?ねらいじゃないのか?」
「………素でしょうね。たぶん、僕にもしてくれると思うので………試しましょうか?」
「ああ、頼む」
ローランドはマイガーと言い合っているユリアスに近づき言った。
「ユリアス、僕にもアーンしてくれるかい?」
ユリアスはヘニャっと笑うとローランドの口元にクッキーを寄せた。
ま、負けた気がする。
何なんだあのゆるんだ可愛い顔は!
俺にはしてくれないゆるんだ可愛い笑顔。
あの顔をしてもらえるまで頑張らないといけないのか?
道のりの目的地が霧に包まれてしまってどうしたら良いのか解らん!!
頭を抱えたくなったのは言うまでもない。
俺は項垂れるマイガーを見つめながらため息をついたのだった。
軽くイチャイチャさせようと思ったのですが………