#2
「こっちがキッチン。こっちがリビング、それで、こっちがお風呂にトイレ。で、こっちが二階の階段ね」
恭平が帰ってしまい、美里は亜希子からの説明をよく聞いていた。
「二階には3室部屋があるわ、一番奥の部屋が、あなたの部屋よ」
そう言って、二人は階段を上って行った。言われた通り奥の部屋に向かうと、小ざっぱりした部屋があった。
気を使ってくれたのか、可愛らしいクマや動物のぬいぐるみが飾ってある。
「ありがとう…ございます」
その気遣いに、美里は初めて素直に言葉を出した。
すると、彼女は目線を下げると、にこっと笑った。
「気に入ってくれた?」
美里は、緊張した面持ちで頷いた。
「よかった!」
その時、階段の下から電話が鳴る音が聞こえた。
「あ、ごめんね…ちょっと、見てて。私電話に出てくるから」
亜希子は慌てて階段を下りて行った。
美里は、部屋の中を見渡した。そこには、真新しい木製の机。ベッドがあった。そのベッドに、美里はゆっくり腰かけた。何だか、ちょっぴり嬉しかった。施設に行って5年。ずっと布団で皆、より集まって寝ていた。こんな広々とした空間は初めてだった。
「これが、兄の健。で、こっちがお父さん。妹になる、亜美ちゃんよ」
亜希子は写真を見せてくれた。この家に着いてから2時間。夕方、キッチンで何か料理を作りながら、亜希子は美里に話しかけた。
「あと…そうね、1時間くらいで亜美ちゃんが小学校から帰ってくるわ」
亜希子が言った通り、亜美という妹は、50分ほどして帰ってきた。
「ただいま、ママ!」
髪を、サイドで結った、可愛らしい女の子だった。
しかし、彼女は亜希子に駆け寄ると、貌をしかめた。
「何で?何であんな子なの?」
美里は、眉を寄せた。目を合わせないよう、美里は知らないふりをした。小さな声を、拾ったのだ。
「何で?亜美、もっと可愛いお姉ちゃんがいいって、パパに言ったのに」
美里に聞こえない、と思っているのか、亜希子はこそこそと喋った。
「パパが、真面目そうな子が一番いいんだよって、言ってたのよ…」
気まずい空気に、美里は真正面から尋ねた。
「あの…」
二人はこちらを見た。
「自分の部屋に行ってもいいですか?」
そう尋ねると、亜美は顔をしかめた。
「どの部屋?あの部屋はダメだよ?まだ亜美使うもん!」
「えー…だって、朝、物置にしてもいいって、あなた言ってたじゃないの」
「冗談だよ!パパがテスト80点取れなかったら、って言ってただけだもん」
美里は凍り付いた。
「ゴメンなさい、美里ちゃん、亜美がダメって言ってるから、部屋はとりあえず、そこのトイレの隣の空き部屋でいいかしら?」
美里はポカンとした。
「今、掃除機とか入れてるけど、掃除して整理したら、小ざっぱりとはなるから…」