#1
拙いですが、読んで頂けると嬉しいです。
私がその家にもらわれたのは、11の時だった。
空は澄み切った晴天で、施設のワゴン車に乗せられ、高速道路を走りながら美里は窓の外を見ていた。
「今日は晴れてよかったね、美里ちゃん」
運転席の恭平さんはそう言った。彼はもっぱら車運転の専門スタッフの一人である。
なかなか貰い手が見つからず、ここ2年の間に10件もの交渉があった美里。気が大人しく、5件目の面談で、思わずお腹を下してしまったこともある。
「早瀬て家は、お兄さんもいるみたいだから、仲良くなれると思うぞ」
恭平さんは言った。
美里は、楽しげな表情を見せている彼を、後部座席から冷ややかな目で見つめた。
「こんにちはー」
15分後。恭平さんはある一軒家に着くと、美里を連れて玄関口、インターホンを押していた。
「こんにちはー」
しかし、返事はない。
「こんにちはー、あのー!」
留守カかなぁ、と恭平さんは呟いた。
そんな彼の横で美里は、一人離れると、脇の庭口へと歩いていった。綺麗な花が咲く中庭。
雑草の無い、綺麗な庭だった。細い脇道に並べられた、マリーゴールド。並んだその道を進んでいくと、大きな中庭に出た。
「うわぁ、綺麗…」
色とりどりの花が咲いている。随分と整えられた庭だった。人の気配はない。
「おかしいな、今日来るって電話したのに…」
恭平さんが言うのが遠くから聞こえて、美里は細道をまた通って彼の元に戻った。
「美里ちゃん、車に戻ろうか」
そう言って、二人、踵を返した。
その時。
「あーら、ごめんなさい!」
背後から鋭い声が聞こえて、二人は振り返った。
40代の女の人が、タオル片手に玄関口に現れていた。
「恭平さんですか?」
「はい!そうです」
「ごめんなさい、裏庭で雑草刈ってたものでね…」
女性は言った。
「いえ、いいですよ」
そう言うと。
「この子が今日からこちらでお世話になる、美里です」
恭平は美里の肩を優しく押した。
「あなた、美里ちゃんね?どうぞよろしく。亜希子です」
そう言って彼女は手を差し出した。美里は、恐る恐る手を差し出し。握手した。
「…」
「ここは早瀬っていうのでね、あなたは今日から早瀬美里よ?」
にこりと彼女、亜希子微笑み言った。
「早瀬…美里」
美里は呟いた。大人二人がなにやら話し込む中、美里は独り、暗い顔をした。
私は―― 早瀬じゃない。川上 美里だ。