手紙
「いゃあ〜、逃げられちゃいましたね〜」
黒いスーツのボタンを外して、白いシャツを見せる彼は後ろからついてくる兵士に他人事のように呟いた。
兵士は彼のように軽装ではなく、防弾チョッキを着ている。そのわけは彼が超能力者ということにある。
つまり彼にはそんなものはただの邪魔になるだけだ。
だからお気に入りの上質なスーツを着て、この作戦に赴いている。
「キリヤ隊長どういたしましょう」
この兵士が隊長と呼ぶように、このふざけた男は意外と偉い地位に就いている。それもキリヤが大人しく政府の言うことを聞いているかである。
基本、政府は超能力者にそれなりの地位を用意している。それは力あるものが上に立つべきという大統領の考えがあって成立した。
確かに強くなければ下のものに示しがつかないがこの男は性格が問題だ。
適当で何を考えいるかわからない。これではどうしても不安になってしまうだろう。
しかしこの兵士は文句を言わず彼について行く。そうするしかないのだ。それが仕事だから、それが責務だから。
「ん〜、そうですねぇ…」
キリヤは腕に装着した腕時計のような機械を見て唸る。
これは政府から受け取った、周りの超能力係数を計測する機械、UDだ。
超能力係数とは超能力を使う時に空気中に散漫する目に見えない放射線のようなものだ。しかし、これは超能力を使っていなくても超能力者から微量なりに探知できる。
それを利用して今、彼女を探している。そして反応があった。
「他の隊員も呼び戻してください」
「了解!」
上司の命令にその隊員はすぐに他の隊員、四人を呼ぶためにトランシーバーを取り出し通信している中、キリヤは独り言をそっと呟いていた。
「さぁ、楽しませてくださいよ。でないと疼きが止まらない」
だがこの一言は後ろにいる真面目な隊員にも、誰にも聞こえてはいなかった。
その少し前、ダンの元にに一通の手紙が届いていた。名前と文字の綺麗さからして女性であることがわかったがその名前を見てダンは少し驚いていた。
「ラブレターか?ラブレターなのか?ラブレターなのだな!」
ガレットはライフルの銃口を向けるが、その手は怒りで震えていた。
「待て待て、落ち着け。お前も読んでみろ」
その引き金が引かれる前に読み終えて、手紙を渡す。
ムッとした顔を鎮めて、その手紙を受け取る。
「なんだ、誰かと思えばリカではないかリカか」
ラカサも気になって横から見ると最初にリカ=フレバレスと書かれていた。
これが手紙の送り主なのはわかるが、なぜガレットの怒りが治まったのかはラカサには理解できなかった。
それにこんな名前は一切聞いたことがないので、置いていかれた気分で自然とキョトン顏になる。
「いいか、ラカサ。リカは前言った俺たちの仲間のだ。離れ離れになっていたが、この場所は事前に集合場所として知らせてあったからな。だが、この手紙からすると来れそうにないぜ」
ダンの言葉と共に読み終わったガレットがラカサへとその手紙を回した。
その手紙を眺めるように見始める。
ダンくん、ガレットさんへ
突然の手紙をすいません
だけどこれしか方法がなかったんです
というのも今、政府の追っ手から逃げているんだけどかなりしつこく、その中に一人超能力者がいるのでとてもにげれそうにありません
助けてください
場所は地図に書いておきます
封筒の中には地図、その左上らへんに赤い印がついている。
リカはここで助けを待っているのだろう。
「よし、じゃあ善は急げだ。二人とも行くぞ」
椅子から飛び上がり、ダンは出発の準備をする。
「ちょっと待ってください。これって本物なんですか?」
ラカサはリカという人物を知らない。だからこそこれは政府からの罠なのではないかと思える。ダンは仲間の名前が出てきて驚いただけだと。
「政府はここを知らない。だからそれはないだろうな。それにお前の手帳には俺の名前が書かれてるのか?」
言われてハッと思い、黒い手帳を開くがダンの名前はない。それにガレットの名前も、リカという名前もだ。
「な、ないです」
「なら何の心配もいらねーだろ。ほら急ぐぞ」
「はい!」
ガレットは既に出発できる準備を終えていた。彼がどうするかわかっていたんだろう。
ラカサもそんな風になれたらな〜と思った。
そして行き先はリカがいると思われる廃墟ビル。三人はできるだけ急ぐことにした。
「いゃあ〜、…これはやられましたね〜」
UDを頼りにここまで来るとそこには血が広がっていたのだ。
「隊長…これは……」
呼びかける兵器を無視して、UDをそれに近づけさせる。
「ん〜、この血には超能力が使われてるねぇ。彼女の超能力は増幅、この血にそれを使って超能係数を誤魔化しているんだろうね。実際、かなり混乱してるよUD。もう使い物にならないね」
超能力係数は超能力ナノマシンから発生される。体から血まで。
それを知っていたリカはUDのような存在を恐れて自分の血を流し、それに超能力を加えた。
彼女の作戦は成功して、キリヤは頭の中を巡らせる。このままではダンと合流する可能性が高いからだ。
はっきり言ってキリヤは戦闘はあまり得意ではない。それはリカも同じであったが格闘なら自信がある。
だがその差は超能力が埋めてくれるだろう。なのでまずはリカだ。彼女を見つけることができなければ何も変わらない。
「これは仕方ありませんね。全員別行動にして広範囲に探したいのですが、あなたたちで超能力者には敵わないでしょう。なので二人一組で辺りを探索してください。もちろん見つけたら報告を忘れないでくださいね」
「「「「はっ!」」」」
腹の底から響くように声を発する。
「じゃあ、念のために君は僕と一緒に来てくださいね。あまり戦闘には自信がないのでね〜」
「はい任せてください隊長」
彼は後ろからついて行きながら違和感を感じた。この男の言葉に。
確かに超能力によっては戦闘に不向きなもこがあるが、彼はそんなの関係なしに強い。そんな気がしてならないのだ。これは兵士としての勘かもしれないが。
「手紙によるとこの辺ようだな」
地図を頼りにある建物に着いた。昔、大型ショッピングモールとして活躍していたが戦争に入り、そういう娯楽的な店はほとんど廃墟となった。
未だに残っているのは戦争で後回しになっているからだ。政府もそんなに暇ではないし、そんな費用はない。
そんなものに使うなら戦争に行ってる兵士たちの武器を新調するための金にする。今は戦争第一なのだから。
そんな今となっては無意味な建物に入る。
「へ〜ここがショッピングモールか」
研究施設からほとんど出たことのないダンとガレットはこんなところに来たのは初めてだ。
もちろん死神界でずっと過ごしていたラカサもこのようなところに訪れるのは初めてだ。
「わ〜凄いですね」
まず驚いたのは広さだ。
この街の人、全て入るのではないかと思えるほどの大きさだ。
「だがこれだと探すのに一苦労だぞ」
地図にはここだいうこと以外何も書かれていないから一から探さなくてはいけない。しかし、それは相手も同じことだ。
「さてどう探すか考えなくちゃな」
ダンは自分がいるショッピングモールを見渡して頭をかいた。
ここはまるで迷宮だ。だが、だからこそここからリカを助け出さなくて。
今頃、何処かで隠れながらないているのではないか心配だ。
とりあえず歩き回ることした彼らはその足を踏み出した。