的中
ダンの弾丸はコロクには当たらなかった。
昔、政府に囚われていた頃に行った超能力検査では一回も外さなかった。
もし、今回の相手が動いていたら仕方ない気もするがコロクは動いていなかった。なのに外した。
ただ外したのではなく正確に狙って風や空気の影響を失くすために超能力を使って外したのだ。
それはもうダンの心を折るのには十分すぎた。
隠していたもう一丁の拳銃と右手に握りしめた銃でコロクに向かって連射した。
だが結果は変わらず、外れ。ジャングルジムに当たって虚しい音を鳴り響かせるだけ。ダンが求める殺した感覚はまだこない。
「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるって言うけどさ、それは普通の人間相手ならだよお兄さん」
悠々とジャングルジムの上で佇むその少年コロクはとても子供とは思えないほどの嫌味を吐く。
「的が小せえんだよ。まだアリの方が当たるぜ。お前どうなんってんだよチビ助」
「そんなの聞かなくてもわかってるんじゃないのお兄さん。僕たち同類なんだから」
超能力。またもやこれがダンの行く手を阻む。
まだどんなものか詳しくわからないが今まで外れた弾はその超能力で外されていたのだ。
コロクはダンが放つ弾丸が危険だと知っていたから超能力を使ったのだ。
普通、超能力者はできるだけ超能力を使わないようにしてその力の正体を隠している。
だがコロクはそんなまどろっこしいことはしないし、そんな必要はない。政府を通じてもうダンの超能力を知っているからだ。
この差は大きい。
超能力者同士の戦いでは相手の超能力を見抜いてそれを攻略することが勝利条件となってくる。
つまり、ダンの超能力を既に知っているコロクは半分勝っているのだ。
「ほらほらお兄さん、どんどん撃ってきてよ。面白くないでしょ」
「バーカ、そんな誘い乗るわけねーだろ」
実際、コロクは鞄の中にあるはずの手榴弾を使う様子はない。
数も限られてるから確実に当てたいのだろう。ダンが近づくのを今か今かと待っている。
「ふぅ……まあ俺はちょっと様子見でもするか」
二丁の拳銃を握ったままダンは地雷探知機を捨てて後方へと下がって適当なところに座った。
「なんだよなんだよ!つまらないよそんなの〜」
駄々(だだ)をこねるその声を煩わしく思い、両耳を塞ぐが効果が乏しく苦い顔をする。
「さて、どうしたもんか……」
多分この距離でも当たらないだろう。
ラカサがまだ公園前でうろちょろしているのが見え、少し細工をしておいた。
「よし、行くか…」
ダンが検討がついた頃、何かしたのかニヤニヤしてる。
「もう待ちくたびれたよ。まだ遊べるけど、遅くなったら怒られるから五時までにしようか」
「五時?オイオイ、まだ三十分もあるじゃえか。あと五分とかにしておかないとお前死んじまうぜ」
両者、いがみ合い、にらみ合う。
「笑えない冗談だねお兄さん」
「残念だが俺はとびっきりの馬鹿でな、冗談がわからないんだ。教えてくれよクソ餓鬼」
ダンは嫌味ったらしい言葉でせせら笑う。
「そう…なら僕が一から教えあげるよその体に!」
我慢できなくなったコロクは鞄の中から手榴弾を撒くように投げた。
「へ!そんなの当たるかよ」
ふんわりと飛ぶその手榴弾をくぐるようにして避けてそれはダンの遥か後方で落ちていく。
しかし、爆発はダンの背中で起こった。
「ガハッ!」
肺に入っていた酸素やら何やらが吐き出される。それとともに地面に血が無残に広がった。
「クソ……やっぱりお前そういう超能力か」
最初の一発目からおかしいと思っていた。
一番気になったのは距離。
まず外れるとしてもジャングルジムに当たるのはおかしい。コロクは一番上にいるのだから普通は空に向かって行くはずだ。
つまりダンが撃った時の距離は撃とうとした距離とは違ったのだ。
詳しく言うと近づいていた。近づけさせられていたということになる。
そして地面にある何かに引きずったような跡、これも気になった。
もしかしたらこれはダンがコロクの超能力によって引き寄せらているのではないか、と考え大体の目星はついた。
相手を自分に方へと引き寄せる、そんな超能力なのだと気がついた。
先ほどの手榴弾で複数のものでも可能だということもわかった。
これで謎解きは終わり。あとは解剖するだけだ。
そう自分に言い聞かせて背中の激痛を無視して、一歩前に出る。
「食らえチビ助!」
右足で踏ん張って発砲するがやはり当たらない。
そのことをわかっていたダンは引き寄せられる前に銃を捨てて、引き寄せられた場所でもう一丁の拳銃を発砲した。
だが今度はよけられた。外したのではないので大きな進歩だ。
「あはは!はっずれ〜〜」
「クソ!まだだ」
その角度を保ったまま二発撃った。
しかし、それらは真っ青な空に吸い込まれて行った。
「残念、残念♪今のは惜しかったよお兄さん」
ダンは足元に転がっている拳銃を拾った。
「いやもう次はない覚悟しな小僧」
「なに言ってるのお兄さん?それは僕の台詞だよ」
コロクの茶色かったはずの目が黄金色に不気味に輝き出した。
するとズルズルと背後から何か近づいてくる音がした。また超能力を使ったらしい。あの目は超能力者としての力をフルに出しているからだろう。
咄嗟に横跳びそれを避ける。
それが何なのかダン自身の目で確かめてみると、そこは地面がほんの少し隆起している。
「どう! ?対戦車用地雷だよ。僕なら軽く吹っ飛んじゃうけど、お兄さんならどうかな」
ニヤリと笑って呟くと、ズザズザとモグラのように迫ってくる。
「くっ、うぜぇ」
後ろに下がりながら距離をとって銃で撃った。
それで爆発した地雷はかなりの勢いでダンはすべり台まで吹き飛んだ。
「あははははは!!軽い、軽い。もう死んじゃったかな?」
自分が座っているジャングルジムの棒をバンバン叩きながら笑うその顔はもう子供とか大人とか関係なく、人間には見えなかった。
だがその超能力者の言葉を裏切るように、静まり返っていたダンはのっそりと起き上がった。
「残念だな死んでねーよ餓鬼。もう時間稼ぎは終わりだ」
手元の拳銃をそっとコロクに向けるが、その手には力がほとんどなく今にも倒れそうな雰囲気だ。
「そんなので何ができるの?ねぇねぇ!」
その様子からもう勝利は絶対的なものであると確信していた。
「黙れ」
その言葉と共に発せられた弾丸はいつものような真っ直ぐ進んでいく。しかしまたコロクの超能力によって下方向へと飛んでいく。
結果、ジャングルジムの鉄棒を貫いてく。それがダンの標的だった。
今までの損傷に加え、この一発でバランスを崩したジャングルジムは崩れてコロクも落ちていく。
「うわ、とっと」
そして地面に着いた場所で爆発が起こる。
地雷が埋めてあったのだ。
「チェクメイト……わかるかこの言葉?」
煙が止まない中、コロクの脳天に銃を突き刺して超能力を使われる前に最後の弾を撃った。
「いゃあ〜、連敗続きですね〜。これだとあの人怒っちゃいますよ。どうしましょう、挽回しておかないとまずいですねぇ〜」
黒いスーツを着こなしている腹黒そうな黒髪男は困った顔一つせず、ヘラヘラと笑う。
「そんなこと言って食事の邪魔するつもり?」
公園であるものをムシャムシャと食べている金髪男はその偉そうな上司っぽい人を睨む。
「いえいえ、その逆ですよ。美味しい美味しいを君に紹介しようかと思って来たんですよ」
「それはこれより美味しいの?」
「ええ、後悔はさせませんよ。僕と組んで見ませんかプライン=ドルナーデさん」
ギラリと牙を見せると血がこびりついていた。
それはもう人の形をした何かであり人ではない。ただ己の食欲を満たすことだけを考える化け物であった。