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DEADストライク   作者: 和銅修一
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雨の中の紳士

「ゴミ箱の件はそういう事情があったんですね」

 第八病院。クラトスの見舞いに来たつもりがすっかりダンたちの話となってしまった。

「まぁ、とにかく俺たちはそういうことで殺し屋を始めたんだよ」

「まだ仕事は一つもやってないがな」

「それを言うな」

「いや、それがなさっきこれを渡されたんだ」

 クラトスは茶色い封筒をダンに渡した。封筒は厚く、中に何か入っている。

「なんだよこれ」

「いいから開けて見な、そしたらわかる」

 すぐに教えてくれないとはめんどくさいと思いながら封筒を開けてみる。するとその中には大量のお札が入っていた。

「おいおい、こんな大金どこで手に入れたんだよ。あのマスターに慰謝料でも請求したのか」

 そんな事はないとわかっているが、そう思うほどの大金だ。

「もちろん違うがマスター絡みなのは確かだ」

「何!それは本当か」

 病院内に響き渡る。

「少し声を抑えろ。これは仕事の金だよ、殺し屋のな」

 つまりこれは初仕事となるのだろう。

「あれ、だけど殺し屋って裏で世界掌握を企んでるサカマさん倒すために作ったんですよね。そんなことしてていいんですか」

「お嬢さん、いい質問だ。今回これは受け取らない予定だったが殺して欲しい相手を聞いて変わった。名前は不明だが写真を貰った」

 スーツ姿で立派な髭を生やしている中年男。まさしくあの酒場で襲ってきた超能力者であった。

「やはり生きていたのかこいつ」

 酒場での後悔が再びこみ上げる。

「依頼人はここから少し離れた裏通りで見かけたらしい。奴はまだダンが負わせた傷もあるしこちらに気づいていない。これはチャンスだと思わないかダン」

 ベッドに座りダンを見上げる目は鋭くとても怪我をした者とは思えないほどの眼光であった。

「そうだな死神が俺に(ささや)いてくれてるぜ」

「それって死亡フラグじゃないか。なぁラカサ」

「ほぉえ?」

 ガレッドに言われて死神は囁くのではなく、間抜けな声を上げるばかりであった。




「ここか、依頼人がマスターを見かけたのは」

 マスターというのは酒場で襲って来て、依頼人に頼まれたターゲットなのだが名前がわからないので酒場の時の名残でそう呼ぶことになった。

 ダン、ガレッド、ラカサが来たのは人通りが少ない裏通りで治安の悪いこの国ではここはとても危険だ。

 警察の目には届かないし何かと都合がいいところだ。見たくないものを見てしまうこともある。

「でもよかったのダン。こんなところに新人連れて来ちゃって」

 どうやらガレッドはラカサの性格上、ここにいるのは不安なのだろう。何となくその気持ちにはダンにもわかる。

「だがこいつも超能力を使えてそれなりに役に立つからな。それにもし何かあっても俺が助けるから気にすんな」

 デッドリストは超能力じゃあないんですけど、と心の中で泣くがそれは誰にも聞こえなかった。その方が都合上いいのだが少し心苦しい。

「ダンさん。優しいんですね」

「別にそんなんじゃあねえよ。ただこの仕事に支障が出ないようにするだけだ。お前のためじゃない」

「ちょっとダン!私はどうでもいいって言うの」

 ガレッドは何かむしゃくしゃしてダンに突っかかる。

「いやそうじゃなくて、お前は強いし大丈夫だろ。だけどラカサは弱々しくて何か助けやらなきゃって思うんだよ」

「あーー!もうじゃあ私もか弱い女になればいいのか」

 ガレッドはプーと頬を膨らませて顔を真っ赤にして怒る。ガレッドの気持ちがわからないダンは首を傾げてその光景を見つめていた。

「あ、あの人そうじゃないですか?」

 まだ興奮が冷めないガレッドを横目にラカサが指差す方向には写真通りのスーツ姿の中年男がいた。

 買い物の帰りなのか紙袋を抱えている。

「よし、作戦通りに動くぞ」

 ダンの号令で各自決めた配置へとつく。

 ガレッドは建物屋上からマスターを追いながらテレポートでサポートする役。

 ラカサはそのガレッドについて行きデッドリストを駆使してサポートのサポートをする役。

 そしてダンはマスターから五十から百メートルほど距離をとりながらチャンスを(うかが)う。

 今回の戦いで有利なのは敵がどんな攻撃を仕掛けてくるかが大体予想できることだ。

 酒場でのあれ。液体から魚雷を出すということがわかっている。これは大きい。そして今回の場合は前回の反省を活かしてなるべくマスターを液体のない場所に誘導するか、少ない場所に着いた時に一斉に奇襲することにした。

 だが彼はダンを警戒しているだろう。怪我の件もあるがあの時、助けたのは政府の使いの者だろう。そいつに接触したということは彼らの研究データで超能力は知られてしまっている。

 だが新人のラカサのことは政府でも一切知らないはずだ。そこを突いていきたい。

「これは俺の野望の第一歩だ。誰にも負けはしねーぞ。お前らを倒してあそこに行かなくちゃいけないんだよ」

 マスターをつけるダンは憤りを感じながら小さな声でそう呟いて携帯を取り出した。






「今のところはここから見ても変わった行動はしていない」

「そうか、何かあったら連絡してくれ。それでも間に合わないならテレポートしてくれ」

「了解」

 携帯を切ったガレッドは観察と尾行を続け、その後ろでラカサはデッドリストをめくりながらいろいろ確認していた。

「でもさっきからあの人はどこへ向かっているんでしょう。これだともう仕掛けた方よくないですか」

「確かにそうしたのは山々だがな、超能力者も超能力者との戦いは小さなことで結果が大きく変わる。できるだけリスクを避けたいし……」

 ポッ、上から何か落ちてきた。手を皿にして確認するとそれは雨だった。

「まっ、まずい!早くダンを回収して逃げないと」

 スコープを覗きながらダンへと標準を合わせる。

「ガレッドさん危ない!」

 いきなりラカサが飛びかかってきて体勢を崩してそのまま転がるように吹き飛んだ。

 直後、ガレッドがいた場所で爆発が起こりラカサが落としたデッドリストにあったガレッド=アイスターの名前は溶けるように消えていった。

「外した…まぁいいでしょう。先にあなたとの決着をつけましょうか」

 マスターは目の前に現れたダンと対峙して手に抱えていた袋を道端に置いた。




 酒場でのダンと交戦したマスターは片足を引きずりながらも逃げていた。

「無様だな。それじゃあせっかくの大人の味が台無しだぜ、おっさん」

 何者だと顔を見上げると金髪でダンと同じ黄金色の目を持つ青年がいた。彼は口をモゴモゴして飽きたように何かを吐き出した。

 出てきたのはガムや(あめ)の類でなく透明のケースだ。中にはメモリーカードが収納されている。

「それがあの白髪とその他の仲間の情報。政府からのお土産だよ。僕は味見だけじゃあ我慢できなくなって食べちゃいそうだからやめておいたけど、おっさんは必要でしょ。それに次の指示があるから」

 金髪男はマスターを担ぎ上げた。

「一体どこへ行こうというんだ?」

「政府が用意した隠れ家。あれだけ派手にやりゃあ顔とか覚えられてそうだし、そこならあれを始末できやすい場所になってるだ〜。いつでも準備はできてるからって電話気軽にかけてきてね。再戦の日時も決められるからってね」

 政府が用意した場所はとても質素だが住めるには住めるところだった。ありがたくここを使わせてもらおう。

「じゃあ、僕はこれで帰るんで次の戦いはもっと刺激的な味にしてくださいね」

 金髪男はそれなけで帰っていってしまった。

「刺激的な味……」

 彼の言った言葉の意味はわからないけど、彼の目は嘘偽りのない綺麗なものでもう一度だけ話をしてみたいと思った。




「ヘイ!マスター死ぬ準備はできてるんだろうな」

「それはこちらの台詞だ。今は念願の雨が降っているお前に勝ち目はない」

 雨も液体。しかも数え切れないほどの数がある。マスターの液体から魚雷を出す超能力と相性がいい。

 だが本当にマスターの超能力は液体の中から魚雷を出すというものなのか。ダンはあの時に違和感を感じて考えた。

 そしてある一つの結論が出た。

「お前の超能力は液体から魚雷を出すんじゃなくて液体を魚雷にするんだろ」

 それに気づいたのは魚雷の威力の違いだ。数滴の酒から出てきた魚雷はさほど威力がなかったが最後のまとまりの酒から出てきた魚雷はダンの装甲に傷をつけるほどのものだったし、酒の量が減っていたことからこの結論に至った。

「確かに……。ですがそれがどうしたと言うんですか?」

 圧倒的にダンが不利なのは変わらない。ガレッドはどうなったかわからないし、ラカサも同じく連絡がとれない。

「それならまだやりようがあるということさ」

「ありわせん。早く終わらせましょう」

 戯言には飽きたとダンの背後から魚雷を発射され背中へと命中した。

「ウォーター・クライ。あなたはこの雨の中で泣きながら死んでいくでしょう」

「死の宣告ってか。残念だがうちのものにそれが専売特許みたいな奴がいるだ。だからその死は俺が取り消してやるよ」

 拳銃を構えて雨の中の紳士へと挑む。

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