ゴミ箱の真相
「おい、ダン見たか今の」
ガレッドは目を丸くして驚いた。
「見たかって…遠すぎて何も見えねーよ」
だがガレッドには見えた。シェパードが新兵を腐られ食いちぎった。
ダンが見えなかったのはガレッドの方が視覚を強化されて作られたからだ。だからこそのスナイパーライフル。一方、ダンはバランス型、特にずば抜けたところはない。超能力者の中では。
「でもこれなら犬も追いついて来れないだろう」
ガレッドからは見えるといってもかなり距離があり、ダンの足も調子を取り戻してきた。超能力者の自然治癒力が少し高かったからだろう。
自然治癒力とは人間や動物が生まれながら持っている怪我や病気を治す力、機能のことだ。
「合流地まであと少しだ」
合流地、そこはクラトスというおじさんが用意した建物でSTRIKEという看板があるらしい。
クラトスというおじさんは政府の者だ。正確には政府の者であった人だ。
何がきっかけは知らないが施設からの逃亡を考えていた時に話しかけてきたのだ。
「君たちここから逃げ出したいだろ」
食糧庫。ここなら監視カメラがないのでいつもここで逃亡の作戦を立てていた。
しかし、今日は知らないおじさんがいた。茶色のコートを着ていて何か怪しい匂いがプンプンする。
「な、なんでそれを知ってやがる」
計画がばれてしまったのかとダンは話しかけてきたおじさんを睨む。
「そんな怖い顔で睨まなくていい。ただ君の助けがしたいと思っただけなんだよ」
「助けだと」
政府の関係者からそんな言葉を聞いたなは始めてだった。
「そう、他のみんな集まってないのかい」
「 もうすぐ来るはずだが気をつけろよ。一人は凶暴だぜ。相手があんたみたいなおっさんでも容赦ないだろうぜ」
「それは怖いな。なら、君にこれを渡して帰るとするよ」
おじさんがはポケットから数枚のカードを出してダンに渡した。
「なんだこれは」
「この施設の鍵だよ。これでも一応関係者だから。それぐらいは持っている」
「何が目的だ。こんなことしておっさんになんか得でもあるのか」
「あるさ。それの報酬に一つだけ頼み事をする」
「いいぜ、俺もタダでこれを貰うわけにはいかねぇからな。言ってみろ」
「殺し屋をやってほしい。最初の依頼人はこのクラトス=コーチスとしてだ。どうだいこの条件飲んでくれるかい」
「ああ、異論はねぇよ。で、殺す相手を先に教えちゃくれねぇか依頼人様よ」
皮肉っぽく返すがクラトスは気にしなかった。
「政府のトップ。裏で世界を掌握しようとしている現大統領のサカマ=ソーマタカスだ」
クラトスはダンに一枚の写真を渡した。そこに写っている緑色の髪の毛の微笑んでいる男がクラトスが言うこの国の現大統領である。
「気に食わねー顔してやがる。こういう奴は嫌いだぜ」
「引き受けてくれるかな?」
帽子の奥からチラリと見えた目はとても澄んでいて年を感じさせないほどだ。
「願ったり叶ったりだ。こいつのヘラヘラした顔をぶっ壊して本当の顔をお前に見せてやるよ」
食糧庫から出てふと写真の裏を見るとそこには彼が話していた建物への地図が書いてあった。
「さて、あいつらに伝えなきゃな」
ダンは足早に廊下を歩いた。
「ダン! やばいことになった」
足に残った弾丸を取り出すため腰を下ろしているところ、ガレッドは後方を見つめて肩を思いっきり叩いた。
「痛! 馬鹿野郎、弾とってるのに揺らすんじゃねえよ。おかげで指が血まみれじゃねえか」
べっとりと血がついた人差し指と親指の間には一発の弾がつままれていた。
「だがとれているじゃないか。それなら問題はないだろ」
「あるに決まってるだろ! ったく、痛くて仕方ねーぜ」
血は出ていないが少し窪んでいる。
「それよりあの犬がこっちにあの犬が全速力で近づいてきてる。あと三分程度で追いつかれるぞ」
「な! 嘘だろ早すぎる」
ダンも後ろを確認するが当然のように見えない。多分だがあの犬は脚力が高いように作られたのではないだろうか。そうでなければたった数分ほど休んだだけで追いつかれるわけがない。
「とにかく二手に別れるぞ」
「いや、それでは足を負傷しているダンが狙われるぞ」
「それでいいんだよ。お前の銃は距離があった方が使いやすいだろ。できるだけ援護射撃をしてくれ」
議論をしている時間はなかった。それが最善の策だと思ったガレッドは頷いてスナイパーライフルを抱えて合流地の方向へと走っていった。
「さ〜て。そんじゃま、始めますか」
ベルトに挟んだハンドガンを構えて呟いてダンは合流地より少し離れたところに立つ塔を目指して走った。
「へい! わん公、どうした、どうした」
超能力犬に自我はなく、知能が低下しているのでこんな風に馬鹿にされても仕方ない。
昔はわん公ではなくコリーと呼ばれ愛されていたはずだった。なのにある日、家に見知らぬ大人たちが入り込んできてコリーの飼い主たちに何か言っていた。
人間の言葉はわからないが男の声の様子から脅していたに違いない。そして脅しに負けた飼い主たちは私を手放した。
それからというもの注射を打たれ、様々なことをやらされた。やらなければ餌はもらえなかったので仕方なくやっていた。そして一番印象に残っているのが注射された薬の効果を確かめるために行った実験だ。
三つの白い箱を確認させられて、その後目隠しをされて箱はシャッフルされる。そして目隠しをした状態で一つだけ何かが入ってる箱があるからそれを見つけ出して中のものをとってくるというものだった。
確かコリーは一度だけ似たような光景を見たことがある。浜辺で緑と黒の丸いものを目隠しして割る遊びだ。
当然そんなことなどやったことはないコリーは嗅覚を頼りに箱に近づいて、一つずつの匂いを確認する。
これは簡単だった。左は無臭、真ん中も無臭だったが右は何か懐かしい匂いがした。昔遊んだことのあるおもちゃでも入っているのだろう。そんな期待を込めて箱を鼻で倒していつもの研究員へ持って行った。
その時、やけに重いと感じたが一応気にしないでいた。コリーは学んだのだ。騒ぐと嫌われて餌ももらえないこともある。だからなるべく大人しくして彼らの言うことを聞いて、餌にありついて生きていればそれでいいと
思っている。
「よし、それじゃ感動のご対面だ」
目隠しがはずされコリーの目の前にあった人間の生首だった。白髪混じりの茶髪に茶色いひげ間違いなく、コリーの飼い主だった人間の一人だ。顔はなぜか腐った匂いがした。 それもそのはず彼は本当に腐っていたのだから。そしてコリーはやっと自分がこの大人たちに従っているかが理解できた。
恐れていたのだ。彼らの力、悪さに。そんな自分に嫌気がさして大声で吠えた。
すると腹の底から力がこみ上げてきた。そして力は食道を通り、歯のところで止まって定着した。
「超能力係数増加、離れてください」
ガラス越しに叫んだ彼の声は届いても、届かなくても意味がなかった。コリーが憎しみと怒りを載せてかぶりついていた。
肉がちぎれる音が部屋に鳴り響き、血は瞬く間に部屋の色を変えた。
暫くして目を覚ますと何だが慌ただしかった。いつの