逃走
アジトに着いたダンたちはクラトスのことを思い出し、病院へと向かっていた。
「そういえば他にも仲間がいるんですよね。どんな人なんですか? 教えてくださいよ」
「そうだな、一つ言えるとしたら殺されないように注意しろってことぐらいだな」
「ど、どんな人なんですか〜そんなの」
ラカサは怖くてちょっと涙目になってしまう。
「まぁまぁ、そんな悪い奴らじゃないから大丈夫だよ」
涙に弱いダンは咄嗟に慰めようとする。が、またもやデッドリストが黒く光った。
涙を拭き、慌ててデッドリスト開くとやはりダンの名前があった。
「ダンさん気をつけ……」
「ダーーーーーーーーーーーーーーン‼︎」
忠告する間も無く、それはスナイパーライフルを構えて現れた。そして近距離でスコープを覗いて撃った。
だがダンは冷静に手で防いで、襲いかかってきたものを捕まえた。
襲ってきたのは女の子だった。とてもスタイルがよく、ラカサより胸があるかもしれない。特に気になったのは紫色の髪とダンと同じ黄金色の目だ。
「ラカサ、紹介する。こいつが俺の仲間、ガレッドだ」
「あ、仲間だったんですね。でもなんでいきなり撃ってきたりするんですか」
「こいつは頭がおかしいんだよ」
頭をポンっと猫を撫でるように撫でた。
「何を言っている! あれは私からの愛じゃないか。なぜ受け取ってくれんのだ」
銃口をダンの目の前に突きつけて怒る。
「あ、愛って。お二人はどんな関係なんですか?」
「ふっ、お前がクラトスが言ってた新人か。いいだろう教えてやるダンと私は嫁、姑の関係だ」
「ぜってーチゲェよ! 俺男だから嫁とか姑とかやらないから」
「なるほどギスギスした関係と」
「お前は本気にしてんじゃねーよ」
「ギスギスなんて言うなよ新人」
ガレッドはラカサを睨んで怒る。
「お、そうだ。言ってやれ」
ここで軌道修正して馬鹿なラカサでも誤解しないようにしてほしい。でないと本当にそう思い込んでしまう。彼女に冗談は通じないのだ。
「ドロドロした関係だ」
ダンの期待と大きくそれて冗談は続く。
「悪くなってんじゃねーか!」
「姑であるダンが嫁である私の弟が好きになってしまい、その弟は実はダンの妹のことが好きで…」
「具体的に話すなーーーー‼︎」
「おいまだ百分の一も終わってないぞ」
「お前はなんでそんなどうでもいい話をそんな続けたがるだよ」
ダンは頭を抱える。
「そんなの理由なんてないに決まっておろう」
ガレッドは堂々と胸を張り、自信満々の顔でそう言い放った。
「なるほど、この世は理屈ではいという深い言葉……って騙されるかーーーーーーーい‼︎」
「ナイスノリツッコミだ。これなら優勝間違いなしだな」
ビシッと親指を立て、ウィンクをした。
「なんの話、これなんの話」
パニック状態のダンにラカサは追い打ちをかけるように一言。
「あ〜、お二人は芸人仲間だったんですね」
「やっぱりそうなるか」
ダンはもうツッコミ疲れてしまった。
「改めて私はガレッド=アイスター。ダンとは昔からの知り合いだ。ちなみに私もダンと同じ超能力者だ」
「へ〜そうだったんですか。よろしくお願いしますねガレッドさん」
誤解を解いて二人は握手をした。
「すまんな冗談に付き合わせて…だが愛というのは冗談ではないぞ」
「へ?」
ラカサはその言葉の意味を理解できず、クラトスが入院している病院へと向かう。
第八病院。最近できたばかりの新しい病院だ。
ここにクラトスは入院している。部屋は三階の一番奥の部屋だ。そこでクラトスがベッドの上で待っていた。
「よぉ、おっさん。そこはちと早いんじゃねの。そこは死ぬ時までとっときな」
帽子やコートがないクラトスは雰囲気が違い、普通のおじさんのようでありいつもワイルドの欠片も残っていない。
「ふっ、余計なお世話さ。俺だってこんなしみったれたところになんざ、いたくないんだ。飯もまずいしナースも若い子がいない地獄みたいなところさ。だが唯一いい点はここならお前みたいに誰にも知られずに死ぬことはないことだな」
「愚痴を言うか、皮肉言うかどっちかにしろおっさん」
ダンは怒りながらもホッとしていたこれぐらい言えるぐらいなら大丈夫だろうと安心したのだろう。
「でも、マスターはなんでダンさんを狙って来たんでしょう? やっぱり殺し屋だからですか」
ラカサの質問に男二人は答えなかった。代わりにガレッドが重たい口を開けた。
「そうか、まだダンから聞いていなかった。いいか私たちは追われているんだ。私たちを作った政府にね」
「な、なんで? 作った人たちなら助けてくれるんじゃないの」
「私たちは政府から逃げたんだ。扱いが悪かったわけではない。私たちは奴らの計画が気に入らなかったのだ。世界掌握計画が」
ガレッドは憎しみを込めて唇を噛んだ。
「世界掌握ですか」
「そうだ俺たち超能力者を大量生産して今戦ってる戦争に勝って、その後、壁の向こうにあるもう一つの国にも戦争を仕掛けるつもりだ。俺たちはそんな頭が戦争ばかりの政府に嫌気がさして逃げたし、それがきっかけでクラトスのおっさんに会ったんだ」
ガレッドの代わりにダンが続けて説明し、話は過去へと遡る。
政府のある建物。表向きでは医学の研究施設となっているが、実際は超能力者を生産するための施設である。
その中では赤いブザーが鳴り響き兵士たちを集めて、超能力者を作っていた研究者は安全な場所へと逃げていた。
「超能力者が武器庫から武器を略奪し、逃走しています。各自、緊急体制を整えてください」
ブザーと共に流れる放送にダンは舌打ちをした。
「何が略奪だ。医学研究施設に武器庫があるのが悪いんだよ」
隣には武器庫から奪ったスナイパーライフルの弾数を確認するガレッドがいる。彼女もダンと同じく政府から逃げることにした仲間である。
「それよりもダン、本当に良かったのかお前もあの二人と一緒に逃げればよかったのに。私が囮作戦にそんな不満か」
あの二人とは他の超能力者であり政府に不満を抱いたものである。そして四人で逃げようと作戦を立てていた頃、ガレッドは一人で囮作戦を開始した。
まずは武器庫からスナイパーライフルを奪い、騒ぎを起こしつつ他の三人から一番遠い場所へと逃げて行くはずだったがダンもついて来てしまい全て水の泡となってしまった。
「不満なんてあるに決まってるだろ。なんで俺たちが知恵を合わせて四人で逃げる作戦考えてるのに、お前はそれを台無しにするような作戦やってんだよ。おかげで今まで出てきた案が全部使えなくなったじゃねえか」
兵士が来ていないか確認しながらガレッドにできるだけの愚痴を漏らす。
「ふん、お前が考えた案などうせろくなものではない。そんな案より私が犠牲になってお前たちが助かった方が良いではないか」
「バーカ、それだとお前が助からないだろが。俺はお前も一緒じゃねーと逃げねーからな」
その場にどっかりと座り意思を表す。
「はぁ、全く。いつまで経っても頑固な奴だ。まぁお前がどうしてと言うなら一緒に逃げてやろう」
「どうしてもだ」
ガレッドが言い終わったと同時にそう答え、顔を近づけた。
「わ、わ、わかった。わかったから近づくな」
「おいこっちから声が聞こえたぞ」
「やべ、お前が大声出すからばれたじゃねーか」
「知らん! とにかく逃げるぞ」
追ってくるのは特殊部隊の兵士たち。この兵士たちは逃走の可能性を考え、超能力者に対抗できる武器を持っている。
「出口はどこだよ。このままじゃあ追いつかれるぞ」
「ここを真っ直ぐ走って大きな広間を抜けて塀を越えれば森だ。まずはそこに行こう」
ダンはガレッドの後ろをついて行き、広間へと出た。
「撃てーーーーーーーー‼︎」
広間の二階に隠れていた兵士たちが一斉射撃が始まった。
「しまった!」
油断していたダンは一発、足に食らってしまった。だが止まることなく走り、広間を抜けた。
「隊長! 二人とも逃がしましたが、一人にナノマシン弾を命中させました」
「そうか、なら檻からあれを出して奴らが向かった森へ放て」
「はっ!」
兵士たちは倉庫にあった檻を森へと放った。
「ちっ、やっぱこれはきついな」
塀を飛び越え森へと入ったダンは弾が当たった足の様子を確かめていた。傷は浅いがそこから力が抜けて行く感じだ。
これが超能力者に対抗できる武器、ナノマシン弾だ。弾に込められたナノマシンが超能力者の中にあるナノマシンを攻撃する仕組みだ。
ダンたちはこれを知っている。何年か前に脱走しようとした超能力者がこれで捕まったからだ。話には聞いていたがやはりかなりきつい。
「ガレッド、すまんが先行っててくれ。俺は足手まといになっちまう」
すぐにでも追っ手が来るだろう。その時にこの状態で逃げ切れる自信がなかった。
「嫌だ、私はお前と逃げるんだ。勝手は許さんぞ。そもそも一緒じゃないと逃げないと言ったのはダンだろう」
「はっ、お前も頑固なところは変わんねーな」
ダンは立ち上がり街がある方向へ歩いた。街中なら政府のものでも大きな騒ぎは起こせないからだ。しかも追っているのが最高機密事項の超能力者だ。一般市民にばれたくはないだろう。
静かな森の中、ダンの腹の虫が鳴った。緊張が解けたからだろう。
「はぁ、街に入ったらなに食おうかな」
腹を抑えながらご馳走を夢見るダンだが、彼には血を求める獣が迫っていた。