新たな力
「ラカサ、幼馴染だからって容赦はしないわよ」
「そのつもりでここに立ってます。どうぞご自由に攻撃してください」
鎌対素手という不利な状況でラカサは余裕な表情で幼馴染を見つめる。
「はっ!」
鎌の持ちての一番下を両手でしっかり握って大きく縦に振る。
しかしその青い鎌は床を砕くほどの破壊力はあったが相手にはかすりもしなかった。
振りかぶった分、隙と相手までの距離ができてしまったから外れるのは至極当然のことなのだがモートにとっては歯ぎしりを立てるほど不快なことだ。
鎌が当たらなかったのも原因にあるが、真の理由は幼馴染であるラカサが何を考えているか分からないことだ。
「あんた、学校でもそうなったことが何度かあったわね。人が変わったように機敏になったりしてさ。一時期はあなたが最強なんじゃないかって騒がれたことがあったわね」
モートのいう学校とは四つの塔の中にあるこの地域とは離れた場所にあるもので次期死神を育てる教育施設。
死神は必ずここを卒業しなくてはいけない。それほど大切なもので、二人もその学校に通っていた。
その前から家が隣同士だった二人はすぐに仲良くなって、お互い競い合う良き好敵手。それは今でも変わらない。
「だけど、残念ね。死神の証でもある鎌を持ってるなんて、誰からも継承されなかったのね。私から何か分けてあげたいぐらいだわ」
哀れみの目で何も持たない殺気の塊を見た。
「いいえ。お父さんからこれをもらったわ。何も継承されてないわけじゃない」
胸ポケットから出したのは、なぜか使えなくなった黒い手帳。
「ふっふっ。そんなものじゃあ攻撃なんてできないでしょ。さあ、ラカサ。あいつらのことを教えて。そうすればあなたは私がどうにかしてあげるわ。超能力者を庇ったことなんて帳消しにしてあげる」
モートがこんなにもラカサにこだわるのにはあの時に本物の殺気というものを見せてくれたのがラカサだったからだ。
今もその時に似た雰囲気が出始めている。
「嬉しいんだけど、それはお断りします。私は私が正しいと思ったことをしているから死神だとか超能力だとか今は考えないようにしているの。だから邪魔しないでもらえる」
睨みつけてくるラカサの目がだんだんと闇に飲み込まれて行く。
「どうやらもう話は通じなさそうね。なら力尽くで従わせるまでよ」
鎌を持つ力を入れて左右からの攻撃を試みるが、紙一重でかわされてしまう。
「これじゃあ切りがないですわね。ならアムシアイン、お願いします」
額で鎌に触れるとその刃からは突如として青い炎が噴き出し始めた。
「これでどうです!」
自信満々に振った鎌だがかなりの距離が空いていてそれは当たりはしない。
何がしたいのか些か疑問に思ったが、当たらないと分かった時点で油断してしまった。
鎌から噴き出している青い炎がまるで空中を走っているかのようにラカサ目掛けて飛んできたのだ。
隙だらけだったラカサはそれだけで吹き飛んで床に倒れて、手に持っていたデッドリストを落としてしまった。
「これが私が父上から直々に継承した鎌。アムシアインから出てくる炎は空間を焼くわ」
空間を焼く。
つまり、その炎からは逃げられないと言われているようなものだ。
勝てっこない。もう少し私に力があれば……。
(力ガ欲シイカ?)
悔しさで握りこぶしを作っていると頭に響くような声がした。
(モウ一度問ウ。力ガ欲シイカ。欲スレバ汝ノ願イヲ叶エテヤロウ)
気のせいではない。確かに頭に男性の声が響いてきた。
欲しい。欲しいです。仲間の役に立てるような力が欲しいです。
頭から聞こえたのだから頭で応えると、目の前に転がっているデッドリストが輝き出した。
(汝ノ願イハ確カニ受ケ取ッタ。新タナル力ヲ授ケヨウ)
右手を精一杯伸ばして光るデッドリストに触れたら頭から聞こえた声は消えて、手帳は形を変えた。
黒い革に謎の文字が書かれた持ちて、持ち主の黒髪のような鋭い曲線の刃。
その形はまさしく死神が持っている鎌であった。
「そ、それは……」
突然現れた鎌に驚くモートに嬉しそうなラカサは笑顔でこう答えた。
「これはフェノメノンブック。私の新しい力です」