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DEADストライク   作者: 和銅修一
25/26

幼馴染の死神

『警告、警告。侵入者を発見。神殿内の死神はただちに対処してください。繰り返します。侵入者を発見。神殿内の死神は……』

 塔の真ん中に位置する魂の神殿はアラーム音が鳴り響いていた。

「ちょっと、神聖な神殿にセキリュティーシステムなんてありません、なんていう根拠のないことをぬかしたのは誰だ」

「だ、だって私神殿なんて入ったことないんですよ。すぐにダンさんのところに行かされましたし普通の死神じゃあ入れないんです」

「入ったことがないんなら、尚更あんなこと言うんじゃない。信じて普通に入って結果がこれだ。囮役を受けてはいるがこれだと目立ちすぎだ。適度というものがあるだろ」

「そ、そんな〜。でもこれで私たちの目的がアズラーイールの書だと思ってくれてダンさんたちが楽になるんですね」

「ま、まあそうだな」

 端からそのつもりでこの神殿に潜り込んできたのだからこれは成功といえば成功ともいえる。

「なら、もうどうしようもないのでこのまま逃げ続けましょう。ガレッドさんの超能力があれば絶対逃げ切れますよ」

 それに侵入者のためなのか、神殿内は入り組んでいて隠れる場所はいくらであるだろう。

「はぁ、はぁ……。ま、待ってくださいよ〜」

 希望が見えてきた二人は警報に急かされて神殿内の廊下を進む足を早めるが、後ろで息をあげているリカに気づくのはその少し後だった。




「もぅ〜、酷いですよ二人とも。私は体力ないんですからもう少し気にかけてくださいよ。ハグれるところだったじゃないですか。私一人だと戦えないから怖いんですよ〜」

 リカの叫びにようやく気付いた二人は足を止めて待って、物陰に潜みながら弱々しい説教を受けていた。

「まあ、まあ。まだ誰にも見つかっていないんですからいいじゃないですか」

「え〜、でも凄く怖かったんですよ。それについてはどう思ってるんですか?」

「ど、どうと言われましても〜ね、ガレッドさん」

 真剣な眼差しで見つめられたラカサは助けを求めるように隣で周囲を警戒している一人に声をかけた。

「いや、こっちにも話を振られても知らんぞ。二人でどうにかしろ」

「「え〜〜!」」

 駄々をこねる子供のように叫ぶ二人の様子に眉間に(しわ)を寄せた。

「おい!死神がいるかもしれないんだ静かにしてろ!」

 少し怒鳴りすぎたのかさっきの騒がしさが嘘のようにシュンとなったが、それでいい。

 ここは敵の本拠地である冥府。しかも警備が厳重な魂の神殿。入れるのはテレポートで簡単だったが囮作戦は困難を極める。

 見つかるとリカのせいで捕まる可能性があるし、見つからなさすぎるとセキリュティーシステムの誤作動として見向きされなくなってしまう。

 最終手段としてはわざと死神の前に姿を現してすぐさまテレポートで遠くに逃げることだが万が一のために備えてあまり無駄な体力は使いたくはない。

 ふと、静かになった二人の様子を見てみるとラカサが自分の黒い手帳を開いて目を丸くしていた。

「どうしたラカサ。その……ええとデッドリストだっけ?それに何かあったのか?」

 超能力だと思っていたそれは死者を事前に教えてくれる優れものだ。これのおかげで何度も助けられたと、ダンがやたら口にしていたので一応覚えていた。

「ガ、ガレッドさん。手帳に何も書かれな句なったんですよ」

「 ?またおかしなことを言うな。それはここからは死者は出ないっていういいことを表してるんじゃないのか」

「私も最初はそう思って範囲をここじゃないところ。とにかくいろんなところに変えてみたんですが、何も反応がありませんでした。冥府だけじゃあなくて人間界の方に範囲を広げて検索してみたのに……」

 いつもはこれでみんなの役に立ってきた。それなのにこんな大事な時に限って反応しなくなってしまった。

 これではまた役立たず扱いされちゃう。どうしよう。

 ダンたちと出会う前の、嫌な記憶が流れ込んでくる。

 自然と体は震えて目も虚ろになる。

「まったく、あんたって奴はほんとに私を不快させるのが得意なんですね」

「だ、誰だ!」

 見張っていたというのにラカサの背後には青い鎌を持った、死神であろう青髪短髪少女が腕を組んで仁王立ちで立っていた。

 その両腕はある部分を強調させて、絶妙なプロポーションが更に彼女の良さを引き出している。

 だが、ガレッドが唯一気に入らなかったのは服装。死神らしからぬ黒い水玉模様のスカート、強調された胸の醍醐味(だいごみ)である谷間がクッキリと見えるほどの大胆な青い上着。だがこれはもはやこれは上着とは呼べないものである。

「モ、モートさん。どうしてこんなところに」

 知り合いであるラカサは不意に訪れた不安感からその冷たい声が抜け出させた。

「どうしてって私がこの神殿の警備を任されているからに決まっているでしょ。人間界に行ってもその天然は治らなかったようね。まあ、その方があなたしいといえばあなたらしいわ。でもね、その二人は何なのかしら?いくら幼馴染でも見逃せないわよ」

 姿勢を崩さず、指差すのはモートと呼ばれた少女の登場に怯えている者の負けじと睨む者。

「こ、この人たちは何というか……わ、悪い人じゃないんだよ。むしろいい人っていうか……」

「死神ではないのですね。それだけ確認てまきたのならいいですわ」

 釈然としない答えで全てを読み取って、口ごもったラカサの体をどかして二人の前に出た。

「冥府は特別な許可がある時以外は死神しか入れないの。逃げ回ったりするんだから許可はなさそうよね。何の目的でこんなとこに潜り込んで来たのかは知らないけど、ここを任されている身としてはあなた達の首を切り取るか、本部に連れて行くしかないの。あなた達はラカサの知り合いみたいだからできれば傷つけたくはないわ。どう、大人して私と一緒に本部に来てくれないかしら?悪いようにはしないわ」

 しゃがんでいた二人に上からものを言う死神はそっと手を差し伸べた。

 もしこの手を掴んだのなら彼女との戦闘は避けられるのだろうが、囮作戦としてそれは失敗を意味する。

「こういう時はそう言って、後で話が変わるのよ。誰が行くもんですか」

 ラカサには悪いが、ここでは拒否という選択肢しかなかった。

 ついでに上から目線の態度がムカついたので差し出された手のひらを思いっきり叩いたガレッドは、その後の彼女の目を見て(おのの)いた。

「あ、あんた……この慈悲深い私がわざわざ助けてあげようと言ってやったのに何その態度!あなたみたいなのは痛み目見ないと分からないようね」

 穏やかだったはずの目からは殺気が滲み出てきて物騒な鎌をガレッドに突き出した。

「モートさん、やめてください!この人たちは私の仲間なんです。たとえモートさんでも傷つけることは許しません」

 突き出された鎌を両手を広げて止めに入って、鎌は途中で動きが止まった。

「許しません?何を言い出すのよラカサ。そいつらが普通の人間じゃないのはあなたの反応からして分かったわ。話に聞いた超能力者って奴なんでしょ。私はオルクスと違って超能力者に恨みはないけど、逃がすわけにはいかないわ。さあ、ラカサそこをどきなさい!」

「嫌です!」

 気迫のある一言にも怖気ず、瞳を見つめて続けて二人の盾となるのをやめない。

「天然は変わらなかったようですけど、代わりに根性が身についたようね。あなたにとってそれは大きな一歩よラカサ」

 出来の悪い生徒の成長を見つめる先生のような目で見つめて昔のことを思い返していた。

「リカさん、ガレッドさん。ここは私に任せて二人は目的のアズラーイールの書をとってきてください」

 何かを決意した目でこちらを向いて吐き捨てる。

「分かった。だが無理はしないで時間稼ぎだけしてればいいからな」

 意図を感じ取ったガレッドは立ち尽くしていたリカの手を掴んで誰もいない方向へと走る。

「ちょ、ちょっとラカサちゃんを一人にしていいの?ラカサちゃん戦えないのにあんな怖い人の前に置いてくなんて酷いよ〜」

「酷いか。あそこで一緒に戦うなんてほざいた方が酷いと思うぞ。あいつは自分の意思と考えで残ったのだ。それを察してやれ。ついでにいい土産をおいてってくれたしな」

「土産?……あ!そっか、あの怖い人に私なちの狙いがあの本だと思わせて注意をここに引き寄せるんだね。ラカサちゃん、あの一瞬でそんなこと決意してただなんて尊敬しちゃうな〜」

 考えられるのはたった数秒かそこらであっただろう。その時間で彼女が決意できたのは目の前に仲間がいたから。

 その仲間がいることによってこそ彼女の真の強さが発揮される。

 鎌を自分の体で止めた時も、ガレッドたちに指示を飛ばした時も、死神特有の雰囲気が自然と流れ出ていた。

「ああ、いつもは頼りなかったが大したやつだ。認識を改めなくてはな」

 走りながら今では頼りになる背中を見つめた。

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